長い規制対応の時代を抜け、ウェルズ・ファーゴ(WFC)は収益と資本の両面で正常圏へ戻りつつあります。2Q25はROE 12.8%、効率性比率67%、NIM 2.68%と、過度なムラのない“地に足のついた”数字が並びました。さらに6月、資産上限の解除が正式に発表され、守り一辺倒から「選択して攻める」運用に舵を切れる環境が整いました。
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2Q25の総収益は208億ドル、純利益は54.9億ドル
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2Q25の平均預金コストは1.52%、LCRは121%で流動性は余裕
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7/29に四半期配当を1株0.45ドルへ増額(+12.5%)と発表
数字が“普通に強い”水準へ戻り、規制面の重石が外れ、株主還元の余地も広がった――この三点が現在地です。
なぜこのタイミングで分析するのか
2025年は米銀の前提が転換する年です。利下げ方向の金利局面と、Basel III Endgame(B3E)の調整・再設計が並走しており、資本規制の“重さ”が見直されつつあります。WFCにとっては資産上限解除直後で、バランスシート運用の自由度が復活した節目でもある。Bloomberg.comEY
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金利:短期金利の低下はNIMに逆風だが、資金調達コストの収れんが対抗要因
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規制:B3Eは実装時期・水準ともに緩和寄りの設計議論が台頭
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会社固有:成長規制が外れ、量ではなく“質を選ぶ”拡大が可能
マクロ(利下げ・規制再設計)とミクロ(上限解除)が重なる“今”は、WFCの持続的な稼ぐ力を測る好機です。
分析対象の概要
WFCは全米屈指の預金基盤を持つ総合銀行。個人・中小企業向けの預貸に厚みがあり、CIBとウェルスマネジメントを組み合わせた三位一体モデルで収益を積み上げます。2Q25は平均貸出9,165億ドル、平均預金1.33兆ドル。NIMは2.68%まで戻り、ROEは12.8%、ROTCE 15.2%と“正常圏”の収益性に復帰。
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個人向け:住宅・自動車・カードなど日常に根差した融資
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法人向け:中堅〜大企業への与信と取引銀行機能、CIBも選択的に展開
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運用・手数料:資産運用・各種手数料で金利依存度を抑制
預金力を土台に、手数料と効率化をかけ合わせて“ブレにくい収益”を組み立てるのが基本設計です。
事業内容と業界動向
米銀の収益ドライバーはNII(純金利収入)×非金利収入×与信×経費。足元は資金コストのピークアウト気配と、市場・投資銀行業務の復調が同居。WFCはトレーディング偏重ではないため、預貸・手数料の“地味な強さ”で勝負します。
景気・金利の波に対し、預金基盤とコスト規律で“振れ幅を抑える”設計がWFCの持ち味となります。
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NIM:預金ミックスと価格競争の巧拙が差を生む
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CRE:オフィスを中心にストレスは残るが、WFCの不良化(ノンアクルーアル)残高は四半期で減少
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コスト:デジタル移行や店舗・人員の最適化を継続
SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)
WFCの本質的な強みは低コストのコア預金と広い顧客接点です。2Q25時点でCET1(標準法)は11.1%、LCR 121%と資本・流動性のクッションも十分。
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強み:厚い預金基盤/正常化したROEと十分な自己資本
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弱み:過去不祥事のレガシー、マーケット好調局面での相対劣位
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機会:資産上限解除後の“質を選ぶ”貸出拡大と手数料の積み増し、増配・買戻しの強化
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脅威:利下げ局面でのNIM鈍化、CRE二次悪化、規制の揺り戻し
“預金×規律”が攻守の軸でありつつ、金利・レガシー・政策の三重リスクをどう管理するかが肝です。
競合他社との主要な財務指標比較(2Q25)
メガ3行と並べると、WFCはROE・効率性で“中の上”。JPMの総合力には及ばないが、BACと並ぶ効率ゾーンに復帰し、ディフェンシブさが目立ちます。
JPMの“超総合力”には譲るが、WFCは預貸と手数料のバランスで安定域に戻り、還元余地も確保しています。
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JPM:ROTCE 21%、標準法CET1 15.0%、オーバーヘッド比率(管理ベース)約52%
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BAC:効率性比率64.6%、CET1 ~11.5%
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C:RoTCE 8.7%、CET1 13.5%
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WFC:ROE 12.8%、ROTCE 15.2%、CET1 11.1%、効率性比率67%
セクター比較
金融セクターの中でWFCは、金利感応度「中」、手数料の安定度「中〜やや高」、規制耐性「中〜やや高」。資産上限解除で資本配賦の自由度が一段と高まりました。
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利下げ:NIMの逆風はあるが、手数料とコストで緩和余地
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規制:B3Eの再設計は大手行の資本拘束をやや軽くする議論が進行
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バリュエーション:P/Bは同業平均並み〜やや上のレンジに位置づく局面が多い
ディフェンシブ寄りの“バランス型”として、下値は預金力とコスト規律が支え、上値は実行力次第という立ち位置です。
今後の戦略と展望の分析
経営の優先順位は「費用の平準化→手数料の厚み→選択的な貸出拡大」。派手な多角化ではなく、“地味で強い積み上げ”がWFCの勝ち筋です。
配当は0.45ドルに引き上げ、自社株買いも機動的に活用。CREはオフィスのノンアクルーアルを減らしつつ、消費者与信はカードで弾力運用、テック投資で顧客稼働率を上げ単位コストを下げる、という“当たり前の強化”を続けるのが合理的といえるでしょう。
投資家にとってのメリットとリスク
長期のコア枠に置きやすいが、短期は評価倍率の揺り戻しに注意。最大の魅力は安定的な還元余地と規律です。
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メリット:増配・買戻しの継続余地、トレーディングに依存しない見通しやすさ
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リスク:利下げでNIM鈍化/預金競争激化、CRE二次悪化、規制の揺り戻し
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スタンス:上昇局面の追随より、押し目・積立が合理的(規律に綻びが出たら素早く見直す)
“普通に強い”モデルゆえ、失策には株価が敏感になりやすい点は忘れずにいることが大切です。
まとめ
私はWFCを「派手さより規律で勝つ銀行」と位置づけます。
資産上限解除で攻めの自由度は増しましたが、価値を決めるのは日々のコスト管理・与信・手数料の積み上げです。買い材料は上限解除と還元強化、効率改善。警戒点はNIM鈍化とCRE、そして評価倍率の伸び切り。
中長期では“地味だが強い複利”を狙える一方、短期は押し目主体でリスクを調整するのが賢明だと考えます。
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