8月27日(米PDT)のFY26/Q2発表を前に、市場の視線は次の加速—or 減速—に注がれています。時価総額は4兆ドル台前半で世界首位クラス。
過熱感の議論が続く一方で、同社は次世代Blackwell/GB200 NVL72の量産立ち上げや、中国向けの規制準拠チップなど攻めを緩めていません。
- FY26/Q1:売上441億ドル(前年比+69%)、データセンター売上391億ドル(同+73%)
- FY26/Q2の会社ガイダンス:450億ドル±2%
- 評価論点:高バリュエーションの正当化=「伸びが続くか」
NVIDIAの足元の数字は“超大型グロース”を裏付け、評価は「伸びの持続性」に収れんします。
なぜこのタイミングで分析を行う意味があるのか
8/27の決算でBlackwell(GB200/B200)立ち上がりの実測や、
ガイダンスに映る供給・HBMメモリ・CoWoSの制約具合が見える公算が高いからです。
さらに米中輸出規制の綱引きの中で、中国向けの新SKU再構築も焦点に。短期のボラティリティは高い一方、中長期にはプラットフォーム移行(Hopper→Blackwell)が利益構造を再拡張し得る節目です。
- Blackwell本格量産と顧客配備の曲がり角
- CoWoS/HBMの供給見通しがマージンと台数を左右
- 中国向け製品ポートフォリオ再設計の行方
「決算+Blackwell量産+地政学」三点同時進行の“節目”といえます。
分析対象の概要
NVIDIAはGPUを中核にCUDAエコシステム、ネットワーク(NVLink/InfiniBand/Ethernet)、
ソフトウェア(NVIDIA AI Enterprise、推論最適化など)を束ねる総合AI計算プラットフォーム企業です。
最新のGB200 NVL72は72基のBlackwell GPUとGrace CPUをラックスケールで一体化し、
“1つの巨大GPU”として動作、1兆パラメータ級LLM推論を大幅高速化をうたいます。
- 収益の柱:データセンターAI(学習・推論)
- 差別化源泉:CUDA/ライブラリ、NVLink、DGX/ラックスケール設計
- 事業領域:GPU/CPU/ネットワーク/ソフトウェア/サービス
ハード単品ではなく“スタック全体”の規模の経済が利益の源泉となっています。
事業内容と業界動向
AIサーバーはHBM×CoWoSの供給に強く依存。2025年はTSMCのCoWoS能力拡張、HBM各社(SK hynix/Micron/Samsung)の次世代ロードマップが並走。
一方、クラウド大手は自社ASIC(TPUなど)でコスト最適化を狙い、GPU一極から“GPU+ASIC併存”へ移行しつつあります。
- 供給:CoWoSとHBMの歩留まり・キャパ拡張がカギ
- 需要:CSP/ハイパースケーラのAI投資は継続、AIサーバー出荷は25年も2桁成長見通し
- 代替:用途特化ASICが一部ワークロードで採用拡大
「供給制約×マルチアーキの共存」が25〜26年の基本シナリオです。
SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威)
強み
- CUDAエコシステムのネットワーク効果(開発者・ライブラリ・ツールの厚み)
- ラックスケール設計(GB200 NVL72)とNVLinkによる“単一巨大GPU”体験
- 圧倒的なデータセンター売上規模(Q1 DC売上391億ドル)
弱み
- サプライチェーン(CoWoS/HBM)への高い依存
- “AIサイクル”依存による業績ボラティリティ
- バリュエーションの高さ(PERの上振れ時リスク)
機会
- Blackwell立ち上がりと推論需要(エンタープライズ/エッジ)の拡大
- ソフトウェア/サブスクのARPU引き上げ余地
- 業種別AI(医療/製造/金融)への水平展開
脅威
- 米中規制での販売制約とSKU再設計コスト
- 競合GPU(AMD MIシリーズ)やCSP自社ASICの台頭
- 省エネ要請や電力規制によるデータセンター建設スローダウン
“スタック×規模の経済”は盤石な一方、供給・規制・競合の三重リスクを常に織り込む必要があります。
競合他社との主要な財務指標比較
最新公表値ベースでPERとデータセンター売上を中心に比較します(2025年8月時点・TTM/四半期混在の目安)。
指標 | NVIDIA | AMD | Intel |
---|---|---|---|
時価総額 | 約4.28兆$ | 約2,700〜2,860億$ | 約1,100億$ |
PER(TTM) | 約60倍 | 約95倍 | マイナス(赤字) |
直近DC売上/四半期 | 391億$(FY26/Q1) | 32億$(Q2’25) | 39億$(Q2’25 DCAI) |
YoY(DCセグメント) | +73% | +14% | +4% |
補足:ガイダンスはNVIDIAがFY26/Q2で450億$±2%を示唆。AMDはDC成長継続だが一部地域影響で逆風、IntelはDCAI微増。規模差と利益体質の差が当面の評価ギャップを決めます。
セクター比較
セクターのバリュエーションを見ると、半導体ETF(SOXX)の組入れベースPERはおおむね30倍台前半。
一方、“AIど真ん中”個別は高いプレミアムで取引されています。
トレンド面では、AIサーバー出荷が2025年も2桁成長の見通しで、セクター全体のトップラインを押し上げる公算です。
「割高×高成長」がNVIDIAの常態。セクター比較は“伸びの確度”とセットで見るべきです。
- NVIDIAのPERはセクター平均より高位
- ただし「収益の伸び率・規模」で割高感を相殺
- “AI投資サイクルの山谷”に伴うボラは前提
今後の戦略と展望の分析
焦点は3つ。(1)Blackwell量産(GB200/B200)、(2)推論需要の掘り起こし(企業内LLM/エージェント)、(3)地政学対応。
- Blackwell:NVL72は72GPUを1ドメインで束ね、第2世代トランスフォーマ・エンジンやFP4で推論性能を大幅に引き上げ。学習・推論ともに電力当たり性能が改善し、TCOで採用が進む設計。
- 推論:クラウド先行配備に加え、企業のオンプレ/コロケーションで“小〜中規模の社内GPT”が普及フェーズへ。NVIDIA AI Enterpriseなどソフト領域のARPU増が粗利を下支え。
- 地政学:中国向けSKU最適化で規制に適合しつつ、サプライ網ではHBM(SK hynix中心)+CoWoS(TSMC)への依存軽減が課題。Micron/SamsungのHBM参画拡大やパッケージ多元化でリスク緩和。
中長期“強気”・短期“ボラ想定”とみています。Blackwellの量産と推論のマネタイズが見えている限り、プラットフォーム優位は継続とみます。
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- Blackwell立ち上がり+ラックスケール設計での性能/電力当たり優位
- データセンター売上規模のレバレッジ(規模の経済)
- CUDA/ソフトウェアのロックインによる競争優位継続
リスク
- バリュエーション高止まり:ガイダンス下振れ時の下押しリスク
- 供給制約:HBM/CoWoSの歩留まり・キャパに業績が左右される
- 地政学:中国規制でSKU再設計コストや販売制限
- 競合:AMDのMIシリーズやCSP ASICによる代替進展
「押し目を待ってコア保有、イベント(決算/規制)前後は分割エントリ」が合理的と考えます。
まとめ
NVIDIAは“ハード×ソフト×ネットワーク×システム”の統合力でAI時代の計算基盤を標準化しつつあります。
FY26/Q1時点の超大型グロースは、Blackwellの量産と推論マネタイズで再加速余地を残します。
一方で、供給(HBM/CoWoS)・規制(中国)・競合(AMD/ASIC)の三重リスクは織り込むべき現実。
私は中長期でコア保有に値するが、短期はボラを受け入れる投資設計が固いと考えています。次の決算では(1)Blackwell台数・ミックス、(2)Gross Marginと供給見通し、(3)中国向けSKUの戦略を要チェックです。
よくある質問(FAQ)
- NVIDIAの株は割高ですか?
- セクター平均より高いPERで取引されていますが、Blackwell立ち上がりとデータセンター売上の伸びがプレミアムの根拠です。投資は成長の持続性を前提に判断しましょう。
- Blackwell(GB200)は何が重要ですか?
- 推論性能と電力当たり性能の大幅改善、NVL72のラックスケール一体化でTCO優位を狙える点が重要です。
- 決算での注目ポイントは?
- Blackwellの供給とミックス、データセンターの成長持続、HBM/CoWoSの制約、ガイダンスのレンジが焦点です。
- 主なリスクは?
- 高バリュエーション、サプライチェーン制約、地政学的規制、競合GPUやCSP自社ASICの台頭です。
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