3行要約:
①MSTRはBTCを企業バランスシートで積み増す“レバレッジ車両”
②公正価値会計で評価損益がPLに直結、指標はBPS(BTC/株)やmNAVを重視
③優先株・CB・ATMで“量”を積み、上昇相場で乗数効果を狙う
導入
2025年8月、旧MicroStrategyは社名をStrategy Inc.へ変更し、自社を「Bitcoin Treasury Company」と位置づけました。 直近の2025年Q2では、公正価値会計(ASU 2023-08)によりBTCの未実現評価益が営業利益へ反映。結果、営業利益140億ドル/純利益100億ドルという、従来のソフト企業の枠を超えた決算に。保有BTCは約62.9万枚規模まで拡大しています。なぜこのタイミングで分析するのか
- 価格の節目:BTCは2025年8月に史上最高値(約12.4万ドル)を更新。
- 会計の転換:2025年から公正価値会計が適用され、評価益/損がPLへ。
- 資本政策の透明化:mNAV水準に応じて普通株ATMの発行強度を制御する規律を開示。
企業概要(旧MicroStrategy → Strategy Inc.)
- ティッカー:MSTR(Nasdaq)
- 事業:①BTCトレジャリー戦略(コア)/②エンタープライズ分析ソフト(レガシー)
- Q2 2025ハイライト:営業利益$14.03B、純利益$10.02B、希薄化後EPS$32.60。期末597,325 BTC(期末時価$64.4B)、7/29時点628,791 BTC。現金同等物$50.1M。
事業内容と業界動向(“量 × 梃子 × 会計”)
- 量(BTC):60万枚超の保有で需給インパクトが可視化。買い増しを継続。
- 梃子(レバレッジ):普通株ATM、優先株(8–10%)、転換社債などを環境に応じて最適配分。
- 会計:公正価値会計で評価損益が営業利益へ。PLのボラは大きいが、BPS(BTC/株)などKPIで実力を追うのが合理的。
SWOT分析
強み
- 保有BTCのスケール(60万枚超)=価格上昇の純度高いトルク
- ATM/優先株/CBの資本調達巧拙でBPSを押し上げられる
- 公正価値会計で業績の可視性が向上
弱み
- 単一資産×レバレッジゆえ評価損益のボラが巨大
- 優先株などシニアクレーム増加(配当・清算順位)
- 下落局面で希薄化圧力と金利負担が同時発生
機会
- ETF・年金・機関資金の流入で売られにくい需給が拡大
- mNAV規律により発行品質を保ちながらBTCの量を積める
- 規制・会計の追加変更で戦略制約
- 価格急落時の担保・償還・希薄化の同時多発ストレス
実数で読む:損益計算書(PL)サマリー
※通貨は米ドル。Q2 2025は公正価値会計によりデジタル資産の未実現評価益が営業利益へ反映。項目 | Q2 2025 | Q2 2024 | コメント |
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売上高(ソフト関連合計) | $114.5M | — | 内訳:サブスク$40.8M(+69.5%)/プロダクト$48.0M(+43.9%)/サポート$52.1M(-15.6%)/その他$14.4M(-11.8%) |
粗利益 | $78.7M | $80.5M | 粗利率68.8%(前年72.2%) |
営業利益 | $14.03B | -$0.20B | デジタル資産の未実現評価益が寄与 |
純利益 | $10.02B | -$0.10B | 希薄化後EPS$32.60 |
貸借対照/BTCポジション(BS+KPI)
指標 | 6/30/2025 | 7/29/2025 | 備考 |
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BTC保有枚数 | 597,325 BTC | 628,791 BTC | 期末時価$64.4B($107,752/BTC) |
取得原価 | $42.4B | $46.07B | 7/29時点平均$73,277/BTC(YTD) |
現金同等物 | $50.1M | — | 期末残高 |
BTC Yield | Q2: 19.7% | YTD: 25.0% | BPS(BTC/株)の変化率として定義 |
BTC $ Gain | $9.5B | $13.2B | 同社定義のKPI |
競合他社との主要な財務“実数”比較(Q2 2025)
同じ「クリプト関連」でも、MSTR=BTCレバレッジ車両/COIN=仲介・保管インフラ/MARA=マイニングとPL/BSの意味が異なります。企業 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 | 参考メモ |
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MSTR(Strategy) | $114.5M | $14.03B | $10.02B | BTC評価益が営業利益を押し上げ。ソフト売上は約1.1億ドル規模。 |
COIN(Coinbase) | ~$1.50B | — | ~$1.40B | ETF保管・S&S収益が拡大。GAAP利益は投資評価益の寄与も。 |
MARA(Marathon) | $238.5M | — | $808.2M | 難易度・電力コストに感応。四半期売上+64%YoY。 |
セクター比較(ETFとの“純度/コスト/レバレッジ”)
- 現物BTC ETF:管理報酬控除後でBTCに準近似。純度は最高だがレバレッジ無し。
- マイナー:BTC価格+採掘難易度・電力コストで二重のボラ。
- MSTR:BTC保有のレバレッジ車両。上振れ余地は大きいが、希薄化・資本コストの管理が鍵。
今後の戦略と展望(定量的“勝ち筋”)
- 量を積む:優先株(8–10%)・CB・ATMを組み合わせ、BPS(BTC/株)を逓増。実績:Q2純調達$6.8B、7月$3.7B。
- mNAV規律:mNAV2.5×未満は原則発行せず/2.5–4.0×は機動的/4.0×超は積極的。
- KPI運用:BPS・BTC Yield・BTC $ Gainで“BTCいくら増えたか”を定点観測。
- リスク管理:優先配当・金利という固定費のキャリーと、下落局面の希薄化・担保・償還を同時に見る。
投資家にとってのメリットとリスク(実装のコツ)
メリット
- BTC上昇に対する純度の高いレバレッジ(ETF超の上振れ余地)
- mNAV規律+KPI開示で希薄化とBPSの関係を可視化
リスク
- 単一資産×レバレッジゆえドローダウン大
- 優先配当(8–10%)と金利の固定費化
- 規制・会計変更、mNAV低迷時のBPS成長鈍化
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