更新日:2025年8月24日
FY2025は連結で営業利益率10%台の定着を狙う一方、英国ポストオフィスのHorizon問題というレピュテーション・リスクを抱えています。
本記事では、最新開示ベースの数値と事業戦略をもとに、同社の現在地を定量・定性の両輪で読み解きます。
なぜこのタイミングで分析を行う意味があるのか
いま富士通を取り上げる理由は、(1) サービスミックスの改善が数値に表れたこと、(2) 非中核資産の入れ替えで資本効率の改善余地が広がっていること、(3) 生成AI活用が「実装フェーズ」に入り案件の採算性が変わりつつあること、の3点です。
- FY2024:サービス内マージンが約13%まで改善。FY2025は連結10%台を計画。
- 資産回転:デバイス/家電系の整理が進み、非継続事業の区分でP/Lの見え方が変化。
- 生成AI:Kozuchi等の下支えで、モダナイゼーション/運用一体の粗利が改善しやすい局面。
分析対象の概要
- 社名:富士通株式会社(東証プライム:6702)
- 主柱:Service Solutions(コンサル~SI~運用)、Hardware Solutions、Ubiquitous(PC等)
- 株式トピック:2024年4月に1:10株式分割、FY2025配当予想年30円(中間15/期末15)
- FY2024(連結):売上高約3.55兆円、調整後営業利益約3,072億円(8.7%)
- FY2025計画(連結):売上高約3.45兆円、調整後営業利益約3,600億円(10.4%)
- 注記:一部事業を非継続へ区分、ポートフォリオ再編を加速
事業内容と業界動向
グローバルのITサービス市場は、以下の4潮流が需要を牽引。
- レガシー刷新/クラウド移行
- 生成AI/データ活用
- ゼロトラスト/OT含むセキュリティ
- 垂直統合(業種別DX)
富士通はこれに対し、テーマ横断×業種特化を束ねるUvanceと基幹刷新のModernizationで勝ち筋を形成。FY2024ではUvance売上が約4,800億円(+30%超)、Modernizationが約2,000億円(+70%)と加速しました。
- AI/計算資産:社内外の大規模計算・量子/アナログ計算、独自プロセッサMONAKA、生成AI基盤Kozuchi等に継続投資。
- 地理別の現実:日本が牽引。海外は欧州再編や事業カーブアウトの摩擦が残り、FY2025は改善ピッチがKPI。
- 案件の質:運用/保守まで一気通貫で持ち、粗利の質と継続収益を高める設計へ。
SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)
強み
- 国内SIでの超大型案件遂行力と幅広い公共・製造・金融の顧客基盤
- AI/量子/ネットワークまで統合する総合技術力と知財
- サービス事業の利益率が約13%まで上昇し構造転換が定量化
弱み
- 海外(特に欧州)事業の収益性改善は道半ば
- 事業再編に伴う一過性コストとマネジメント負荷
- Horizon問題に起因するレピュテーション対応コスト
機会
- 日本企業のレガシー更新需要と業務モダナイゼーションの長期継続
- 生成AIの「現場実装」加速に伴う上流~運用一体での付加価値獲得
- Uvance比率の上昇による連結マージンの底上げ
脅威
- グローバル大手(例:ACN)の15%級マージンと強固な顧客基盤
- 大型案件の採算ブレ・品質問題が連鎖するリスク
- 為替/金利・地政学など外部ショック
競合他社との主要な財務指標比較
企業 | 最新期(ベース) | 売上高 | 営業利益/調整後OP | 営業利益率 | 注記 |
---|---|---|---|---|---|
富士通 | FY2024 連結 | 約3.55兆円 | 約3,072億円(調整後) | 8.7% | FY2025は約3,600億円・10.4%計画 |
NEC | FY2024 連結 | 約3.42兆円 | 約2,872億円(調整後) | 8.4% | ITサービス単体マージン約11.7% |
NTTデータG | FY2025/3 連結 | 約4.64兆円 | 約3,239億円 | 7.0% | 日本セグメントは高水準 |
アクセンチュア | FY2024 GAAP | 約$648億 | 約$96億 | 14.8%(調整後15.5%) | グローバル・ハイマージンの代表格 |
要するに、国内大手は連結で7~9%台、コアのITサービスで10~13%。一方、ACNのようなグローバル大手は15%前後。
富士通はサービス内の改善をドライバーに連結10%台を目指す「マージン再評価」局面にあります。
セクター比較
国内SIは公共/金融のディフェンシブ性とレガシー刷新の追い風が強み。人月型から、成果連動やマネージド型へ移行するにつれ、継続収益化と利益率の張り付きが鍵になります。
富士通はUvance(バーティカル)×Modernization(基幹刷新)でこの潮流にフィットし、AI/量子などの技術資産で差別化を図ります。
- 国内:需要の底堅さ+モダナイゼーションの波が継続
- 海外:再編コストと利益率改善の両立が課題(特に欧州)
- グローバル比較:ACN型の上流~運用一体モデルがベンチマーク
今後の戦略と展望の分析
1) ポートフォリオ再定義(資産入替で筋肉質化)
デバイス/家電などノンコア領域を非継続に区分し、持分/子会社の組み替えを進行。FY2025初に非継続事業からまとまった利益が計上されるなど、資産回転がP/Lとキャッシュ創出に効いています。
- 狙い:バランスシートの軽量化→資本効率と還元余力の向上
- 留意:一過性利益と本業の持続的稼ぐ力を分けて評価
2) サービス・ミックス高度化(Uvance/Modernization)
FY2024のUvance約4,800億円・Modernization約2,000億円は、FY2025の連結二桁マージンを裏づけるトレンド。
投資はKozuchi/量子/独自プロセッサ(MONAKA)、共通基盤(グローバルERP・標準化)へ集中し、テック×ドメインで「面」を取る戦術です。
- 単価向上:業務再設計+運用一体で付加価値を厚く
- 人材アロケーション:PM/アーキ人材の生産性最大化がKPI
3) 国際事業の磨き上げ
欧州の収益性改善と米州の体制強化を継続。価格適正化、案件選別、Near/Offshore最適化でマージン改善を狙います。
- 勝ち筋:日本発の実装力+現地での上流補強
- 課題:大口顧客の契約更改と採算モニタリングの精度
国内は“攻め”、海外は“立て直し”。FY2025は上振れ余地を見つつ、海外改善のピッチと案件採算の質を厳密にフォローしたい局面です。
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- 利益率ドリブンの再評価:サービス比率上昇→マージン改善→EPS成長
- 資本効率の向上余地:ノンコア整理で還元余力の拡張可能性
- AI/量子のオプション価値:ユースケースの量産で収益化が進む
リスク
- Horizon問題:補償・訴訟・入札制限など不確実性
- 海外再編の難度:欧州中心の利益率改善は時間を要す
- 大型案件の品質/採算:一度の躓きが連鎖損失につながる懸念
まとめ
富士通は、サービス主導への構造転換が数字で確認できる段階に入りました。FY2025は連結マージン10%台を目指し、非中核の整理で資本効率の改善余地も広がります。
一方で、Horizon問題と海外事業の磨き上げは企業価値のブレ要因。
したがって投資スタンスは、中期(2~3年)での利益率・キャッシュ創出の上振れにポジティブ、短期はリスクイベントと改善ピッチを厳格にモニター。この二段構えが妥当と考えます。
出典/補足
- 本文は2025年8月24日時点の公開情報(決算短信、決算プレゼン、各社IR資料、主要紙報道)をもとに要約・再構成しています。
- 数値は概数・調整後指標を含みます。詳細は各社最新資料をご確認ください。
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