最終更新:2025年8月28日(数値は断りのない限り百万円・日本基準/連結)
神戸発の老舗洋菓子メーカー、モロゾフ(2217)。プリンやチーズケーキ、季節のチョコレートで知られ、百貨店・駅ナカ・空港などギフト需要に強い販路を持ちます。
直近は原材料(とくにカカオ)の歴史的高騰に人件費・物流費の上昇が重なり、2026年1月期の会社計画は減益見通しです。一方で、インバウンドは過去最高圏で推移し、株式分割や優待制度の見直しで個人投資家の裾野も広がりました。いま必要なのは、構造的コスト上昇下でも利益を積み上げられる「設計」を見極めることです。
なぜこのタイミングで分析する意味があるのか
理由は三つあります。
- 中計Step1の最終年×減益計画:会社ガイダンスが利益率の一時的後退を示しており、ボトムの見極めが重要。
- カカオ相場の高止まり:西アフリカの供給制約でコストショックが長期化。価格転嫁の巧拙が収益差を決めます。
- インバウンド過去最高圏:百貨店・空港チャネルに強い同社は、回復の果実を取りやすい立ち位置。
分析対象の概要
- 社名:モロゾフ株式会社(東証プライム:2217)
- 事業:チョコレート・焼菓子・洋生菓子の製造販売、喫茶・レストラン
- FY25(2025/1期)実績:売上高36,017/営業利益2,058/純利益1,414/営業利益率5.7%
- FY26(2026/1期)会社見通し:売上高36,050/営業利益1,020/EPS27.73円(株式分割考慮後)/配当予想14円(6円+8円)
- 株式分割:2025/2/1に1→3分割実施。配当方針は配当性向40%・総還元性向50%を目安
- FY26 1Q(2–4月):売上8,998・営業利益421・四半期純利益264・自己資本比率72.9%
事業内容と業界動向
事業:定番の焼菓子(ファヤージュ等)、洋生菓子(プリン/チーズケーキ)に加え、新フォーマット「CUSTA」を百貨店で展開。物流は船橋物流センターへの移転を完了し、体制最適化を継続しています。
業界:2024~2025年はカカオ価格の急騰と高止まりが続き、原価率を直撃。加えて最低賃金上昇・人手不足・運賃高で固定費圧力が増大。一方、訪日外客数は2024年に年間3,686万9,900人(過去最多)、2025年も月次で過去最高を更新する月が続き、空港・都心百貨店の菓子ギフト需要は強い地合いです。
- お菓子は「嗜好×ギフト」のため数量弾力性が高い。値上げのみでは数量減で利益率が毀損しやすい。
- ただしイベント季節性×インバウンドは単価押上げに効くため、SKU設計・限定性で勝敗が分かれる。
SWOT分析
強み
- 百貨店・空港・駅ナカなどギフト適合チャネルを確保
- 焼菓子・プリン・チーズケーキ等の強い定番群+新業態「CUSTA」で高付加価値化
- 財務の安定性(FY26 1Q自己資本比率72.9%)
弱み
- カカオ依存度が高く、相場急騰時に利益率が急落
- 労働集約的プロセスにより、人件費・物流費の上振れに弱い
- 季節イベント偏重で四半期間の収益ブレが大きい
機会
- インバウンド拡大による空港・都心百貨店での面展開
- 限定缶・地域/百貨店別SKUなど「少量×高単価」アソートの伸長
- EC予約→店頭受取などO2Oで機会損失の縮小
脅威
- カカオ高止まり(西アフリカの収穫不振・病害)による原価率の長期悪化
- 労務・物流コストの構造的上昇
- 健康志向・少子高齢化による国内数量の頭打ち
競合他社との主要な財務指標比較(直近通期)
企業 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 | メモ |
---|---|---|---|---|
モロゾフ(FY25/1) | 36,017 | 2,058 | 5.7% | 配当性向40%/総還元50%目安 |
明治HD(FY25/3) | 1,154,074 | 84,702 | 7.34% | 食品×医薬の複合 |
江崎グリコ(FY24/12) | 331,129 | 11,065 | 3.34% | システム障害影響も海外は伸長 |
不二家(FY24/12) | 109,984 | 2,298 | 2.09% | 洋菓子/製菓の再建進展 |
示唆:原材料調達力・スケールで明治/Glicoが優位。一方モロゾフはギフト特化の巧拙が利益率に直結。FY26はコスト圧力で一時的に率が縮む想定です。
セクター比較(食品・菓子)
- 菓子は国際相場(カカオ/乳製品)に左右され、原価率のボラティリティが大きい。
- 飲料などに比べ自動化が難しく固定費の吸収が遅れやすい一方、ギフト需要・限定商材で単価を上げやすい特徴。
- 空港・百貨店・駅ナカを押さえる企業ほど、インバウンド回復の恩恵を取りやすい。モロゾフはこの点で土俵が合う。
今後の戦略と展望の分析(筆者の見立て)
FY26は「守りの年」になる可能性があります。バレンタイン偏重の利益構造を平準化しつつ、価格改定×SKUミックス×在庫・物流効率の三点セットで粗利率を回復させられるかが焦点。中期では「ギフト×インバウンド×限定」に磨きをかけ、予約→受取の動線最適化で機会損失を削るべきです。
- SKU戦略:「空港×季節×地域素材」ミニ缶や百貨店別限定など、少量×高単価のアソートを拡充。
- O2O標準化:EC予約→時間指定受取を空港/大ターミナルで常設し、待ち時間と在庫ロスを同時に圧縮。
- 原価平準化:焼菓子比率を高め、カカオブレンドを最適化しつつ品質規格を厳守。
- 物流KPI:船橋センター移転後の外部委託費・在庫回転日数・廃棄率を継続モニタし、SKU統廃合を断行。
カギは「イベント外の客数×単価」の底上げです。CUSTAの体験価値や限定缶のSNS接点を活かし、非イベント期の来店動機を増やすことで、四半期の振れ幅を抑えつつ利益の底上げが可能になります。
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- チャネル適合性:百貨店・空港・駅ナカに強く、インバウンド拡大の追い風。
- 株主還元方針:配当性向40%・総還元性向50%を目安。2025/2/1の株式分割で流動性も向上。
- 自己資本厚い:FY26 1Q自己資本比率72.9%で耐久力あり。
リスク
- カカオ高止まり:供給不安が長引けば、さらなる原価率悪化の懸念。
- 労務・物流費:人手不足・運賃上昇による固定費圧力。
- 計画どおりの減益:FY26は営業利益▲50%計画。回復は価格/MIX/在庫・物流の実行度次第。
スタンス:中立〜押し目拾い。FY26がボトム判定の年になる可能性を意識しつつ、焼菓子MIX・限定缶・空港/百貨店の面展開の進捗をトリガーとして段階的に評価を引き上げる戦略が現実的と考えます。
まとめ
- モロゾフはギフト適合チャネル×定番SKUで強みを持つが、FY26はコスト高で一息。
- 反転の条件は「価格改定×MIX最適化×物流効率化」。イベント外の動線設計が利益の底上げに効く。
- インバウンドは過去最高圏。空港・都心百貨店×限定アソートで単価を積み上げる設計がハマれば、回復の初速を捉えられる。
※投資判断は自己責任でお願いします。本記事は公開資料に基づき作成しています。
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