期末受注残は10.24兆円まで積み上がり、当面数年の業績見通しを“可視化”しています。
さらに豪州向け新型フリゲートの内定報道やH3ロケットの連続成功など、株式市場の評価軸が多様化する局面に入っています。
なぜこのタイミングで分析を行う意味があるのか
「ニュースフロー×受注残×政策の三拍子が同時にそろった稀な局面」だからです。
受注残が売上の土台を提供し、国防と脱炭素という政策・規制ドリブンの需要が継続的な追い風となっています。
- 政策:日本の防衛費は過去最高水準へ。艦艇・ミサイル・宇宙・監視網の整備が継続。
- 技術:H3ロケットの連続成功で宇宙輸送の商用案件回復が視野。
- 財務:FY2024で在庫・運転資本の引き締めが進み、FCFが大幅改善。成長投資と還元の両立余力。
分析対象の概要
MHIは4ドメイン体制(エネルギー/プラント&インフラ/物流・空調・ドライブ(LT&D)/航空・防衛・宇宙)。収益ドライバーは以下の三本柱です。
- GTCC(ガスタービン複合発電)・サービス:大型フレームの新設と保守契約のストック化で採算ミックス改善。
- 防衛・宇宙:艦艇・ミサイル・宇宙輸送が総合的に拡大。FY2025売上は+30%計画。
- 金属機械・機械システム:設備投資循環の追い風で受注残の“収穫期”。
事業内容と業界動向
エネルギー(GTCC・原子力・CCUS)
世界的な系統安定化需要と燃料転換(石炭→ガス/アンモニア)により、GTCCは引き合いが強い状況です。
MHIはガスタービンの新設と長期保守契約をセットで獲得し、収益の平準化・高採算化を進めています。原子力は国内再稼働・保守、次世代炉の開発で底堅く、CCUSはKM CDR™/Advanced KM CDR™の商用納入実績を武器に電力・素材・石油ガス向けの大型化が進行中です。
- GTCC:北米・中東で新設/更新需要が継続。再エネ変動のバックアップとしての役割が拡大。
- 原子力:保守・運転支援が安定収益源。次世代炉(高温ガス炉など)で選択肢拡大。
- CCUS:英DraxのBECCS、国内・欧州の実装案件など“規制ドリブン”の長期需要。
防衛・宇宙
GCAP(次期戦闘機)ではMHIが機体統合の中核を担い、艦艇・ミサイル・宇宙輸送と横串で産業基盤を強化。豪州向け新型フリゲートの内定報道は、日本の防衛輸出として歴史的な意味を持ち、後続案件の信頼資産となり得ます。
宇宙ではH3連続成功を経て、商用打ち上げの回復・拡大が視野に入っています。
物流・空調・ドライブ(LT&D)
FY2024は物流システムの販売一服と欧州サプライヤー破綻の影響で採算が悪化しましたが、FY2025は供給網の正常化により改善を見込みます。
SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)
強み
- 受注残10.24兆円の厚み(複数年の売上が“見える”)。
- GTCC+保守、原子力、CCUSなど政策・規制に強い高採算アセット。
- 豪州フリゲート内定、GCAPの機体統合などで輸出・共同開発の実績を強化。
弱み
- 案件産業ゆえ採算ブレが発生しやすい(物流・ターボで顕在化)。
- 資本効率(ROE)は改善余地が残る(在庫回転・配賦最適化が鍵)。
機会
- 日本の防衛費拡大と輸出ルール整備で後続案件の創出。
- CCUSの社会実装(電力・鋼・石油ガス)と水素/アンモニア混焼の普及。
脅威
- 大型EPCでのコスト超過・遅延リスク。
- 為替・サプライチェーン・地政学などの外生ショック。
- 防衛・宇宙における品質・規制の厳格性(単一不具合が利益を毀損し得る)。
競合他社との主要な財務指標比較
東証の近接ライバル(TTM、2025年8月時点の概数)。バリュエーションは変動が大きいため参考値とし、最新の開示・端末でご確認ください。
企業 | P/E | P/S | P/B | ROE |
---|---|---|---|---|
三菱重工(7011) | 約50.8倍 | 2.51倍 | 5.37倍 | 3.97% |
川崎重工(7012) | 約14.9倍 | 0.61倍 | 1.86倍 | 2.99% |
IHI(7013) | 約22.1倍 | 1.48倍 | 4.77倍 | 5.02% |
- MHIのプレミアム評価は「過去最高の収益・FCF」「防衛・宇宙の伸び」「GTCC/原子力の採算改善期待」「受注残10兆円超」への評価が主因。
- 一方でROEは突出して高いわけではないため、在庫回転・プロジェクト管理・資本配賦の磨き込みが株価ドライバー。
セクター比較
MHIは「国防・宇宙」×「エネルギー・インフラ」の跨り銘柄。
米欧の防衛専業より景気感応度は残る一方、政策需要(防衛)と規制需要(脱炭素)の二重の粘着力を持つ点で国内重工内でも差別化が進んでいます。
豪州艦艇・GCAPの進展は、輸出・国際共同開発の信頼資産として今後の商談に効いてきます。
今後の戦略と展望の分析
- エネルギー:GTCCの新設+長期サービスでストック型を強化。原子力の保守・再稼働、Aero Engine回復でミックス改善。
- GX/CCUS:KM CDR™をモジュール化・量産化してEPCリスクを圧縮。国内(苫東厚真)や欧州での大型実装で実績の面積を広げる。
- 防衛・宇宙:豪州フリゲートの正式契約・移転生産、GCAP契約取得とJV稼働、H3の安定運用で商用打上げ比率を引き上げ。
- 財務・還元:FY2025は配当24円計画。FCFは研究開発(R&D約3,300億円)と成長投資・還元のバランスに充当。
中期(3年)は「受注残の消化→売上伸長→利益率改善」の良循環で増益確度が高い。
短期(1年以内)は豪州フリゲートの契約ヘッドライン、為替、個別案件の採算ニュースで振れやすく、投資スタンスは“押し目での中期保有”が基本線。
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- 受注残10兆円超と政策・規制テーマで可視性の高い成長。
- GTCC/原子力/防衛・宇宙という高採算アセットの比率上昇。
- CCUS・BECCSなど次世代テーマでの商用実装の蓄積。
リスク
- 大型EPCのコスト超過・遅延による一過性損失。
- 供給網リスク(欧州サプライヤー破綻など)の再燃。
- 規制・輸出管理・品質問題による非連続ショック。
- 高位バリュエーションゆえ期待剝落に弱い。
具体エピソード
- 鋼業×CCUS:欧州高炉でのCO₂回収パイロット(例:ベルギー・ヘント)。重工×素材の連携実績は欧州規制の深掘りに直結。
- 電力×BECCS:Draxの長期契約・パイロットから商用展開へ。負の排出はカーボンプライシング時代のオプション価値。
まとめ
三菱重工は国防の国策と脱炭素の規制という相反しない二大潮流を同時に取り込める数少ない大型株です。FY2024で過去最高の収益・FCF、受注残10.24兆円、FY2025の防衛・宇宙+30%計画は“見通しの良い成長”を裏づけます。
短期のボラを受け止めつつ、受注残の消化→ミックス改善→資本効率の上振れという中期の歯車が噛み合う局面を取りにいく。
押し目で積み上げ、3年視点で“政策×規制”の二重の追い風を収穫する戦略が有効と考えます。
※本記事は情報提供のみを目的としたものであり、特定の有価証券の売買を推奨するものではありません。
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