Indeed/Glassdoorの統合、人員最適化、セグメント再編(MMT化)、そして大型の自社株買いと消却。2025年のリクルートは「求人×AI」の実装と資本政策の同時進行で、収益の“質”を底上げしています。本稿は最新開示と競合比較から勝ち筋とリスクを具体化します。
なぜこのタイミングで分析を行う意味があるのか
「今」語る理由は三つ。第一に、Indeed+Glassdoor統合と約1,300人の削減により、AI投資へリソース集中が進むこと。第二に、国内人材領域のHR Technology移管とM&SのMMTへの改称で、KPIの見方が変わること。第三に、資本政策(買戻し・消却・増配)が継続し、EPS/需給の両面で再評価余地が生まれていることです。
- 人員最適化:Indeed/Glassdoorで約1,300人削減(25年7月)。Glassdoor機能はIndeedへ統合。
- 組織再編:25年4月に国内のHRソリューションをHR Technologyへ移管、M&SはMMTへ改称。
- 還元強化:24-25年にかけ自己株式8,592.98万株を消却(25/3/24)。25年2月に最大4,500億円の新買戻し決定。
分析対象の概要
- HR Technology:代表的な事業はIndeed/Glassdoor。成果課金を軸に、募集文面生成・応募フィルタ・面接設定などの自動化を拡張。日本ではIndeed PLUSがRikunabi NEXTやTOWNWORK等と連携。
- MMT(旧Matching & Solutions):SUUMO/じゃらん/ホットペッパー等の垂直メディア群+Air BusinessTools(Airレジ/AirPAYなど)で店舗オペを支える。
- Staffing:日欧米豪の人材派遣。テクノロジーで募集〜稼働の効率化を推進。
三層構造により、景気循環の揺れを受けつつも、高採算のHR Techが全社の“質”を牽引。国内SaaSがベース、派遣がボリュームの安定装置という配置です。
事業内容と業界動向
企業の基本的な採用プロセスは「募集→応募→選考→内定→入社」です。
AIはこの鎖を自動化と精度向上でつなぎ直しています。求人配信は従来のクリック課金から、応募・採用などの成果課金に比重が移りつつあり、Indeedでも単価・収益性の改善余地が残ります。日本ではIndeed PLUSが複数ジョブボードへの配信・運用自動化を進め、Air BusinessToolsは登録拠点と決済流通を伸ばし、MMTのLTVを押し上げています。
- HR Tech:FY2024の調整後EBITDAマージン35.9%(FY2025見通し34.5%)。
- MMT:FY202422.8%(プロフォルマ25.4%→FY2025見通し27.5%)。
- 派遣:FY20245.8%(FY2025見通し5.6%)。
SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)
強み
- 集客とデータ資産:Indeedのトラフィック×Glassdoorのレビューが歩留まり改善に直結。
- 高採算エンジン:HR Techの高マージンが全社の質を牽引。MMTも堅調。
- 国内実装力:垂直メディア×Air SaaS×Indeed PLUSで“現場のKPI”まで接続。
弱み
- 派遣は構造的に低マージンで景気ボラに敏感。
- 検索/SNS系との集客競争で獲得コストが上振れしやすい。
機会
- 採用工程の自動化:生成AI×予測AIで「応募→採用」歩留まりを押し上げ、成果課金の厚みが増す。
- 日本の人手不足:賃上げ・省人化投資の流れでMMT×HR Techの接続価値が拡大。
脅威
- 米欧景況感の悪化は中小雇用主の採用縮小に直結。
- 再編摩擦(人員最適化・統合作業)の一時費用や開発目詰まり。
競合他社との主要な財務指標比較
企業 | 期 | 売上規模 | 収益性指標 | 要点 |
---|---|---|---|---|
リクルート(連結) | FY2024 | 3.56兆円 | 調整後EBITDA 6,788億円 | 営業益+21.9% |
リクルート(HR Tech) | FY2024 | 売上1.37兆円 | 調整後EBITDA率 35.9% | FY2025見通し34.5% |
Adecco | 2024通年 | 売上約2.3兆円(€ベース) | EBITA率 約3.1% | FCF堅調 |
Randstad | 2024通年 | 売上€2.41兆 | Underlying EBITA率 3.1% | 回復比率改善 |
ManpowerGroup | 2024通年 | 売上$179億 | 営業利益率 1.7%(調整後2.1%) | 逆風継続 |
ZipRecruiter | 2024通年 | $4.74億 | Adj. EBITDA率 16% | 軽量高回転 |
要するに、派遣専業の1〜3%台マージンに対し、リクルートのHR Tech 35.9%は“別次元”。この差が全社の質を底上げしています。
セクター比較
- HRテック:景気感応度は高いが、成果課金×自動化で営業レバレッジが大きい。
- 国内垂直メディア&SaaS:Air系SaaS装着率とGPV拡大でLTVが上昇、広告依存を緩和。
- 派遣:低マージンだがボリューム安定。日欧米豪で局面差を相殺。
今後の戦略と展望の分析
私の焦点は「採用工程の自動化率」と「日本実装の深度」です。Indeedは求人分配(Indeed PLUS)と面接設定・スクリーニングの自動化で「採れる応募」に寄せ、CPAの最適化速度を高めます。MMTはAir BusinessToolsの登録とGPVを伸ばし、店舗/サービス現場を面的に抱え込み、派遣はユーティリティとして稼働を平準化する。組織再編で開発を集中し、FY2025の営業益+10.1%見通しを“質の改善”で達成する設計です。
- 工程自動化KPI:応募質の向上、面談自動設定、スクリーニング精度で「応募→採用」歩留まりを複利化。
- Indeed PLUS×国内ボード:Rikunabi NEXT/TOWNWORK等へ最適配信、ATS連携で運用負荷を削減。
- 開発集中:Glassdoor統合と人員最適化で重複を排し、モデル改善の頻度を上げる。
- 資本政策:買戻し(最大4,500億円)+消却でEPS・需給を継続的に下支え。
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- 収益質の改善:HR Techの高採算×MMTのSaaS化で全社マージン体質が強化。
- 還元強化:大型買戻し・消却・増配の三点同時でEPSと需給を改善。
- 国内実装の厚み:垂直メディアとAir SaaSで現場データを握り、Indeedと循環。
リスク
- 景気敏感性:米欧の採用冷え込みで短期の変動が大きい。
- 競争:検索/SNS系の入札競争で集客コストが上昇しうる。
- 再編摩擦:人員最適化・統合の一時費用、開発ボトルネック。
- 為替:外貨収益の円換算影響が大きい。
私の立場:短期は中立、中期は強気。AI実装と国内接続の深化で、“歩留まりの複利”が評価の主導権を握ると見ます。
まとめ
- FY2024は増益基調、FY2025は売上微減・利益増の会社見通し。
- HR Techの35.9%という高採算と、MMTの登録拠点・GPV拡大が土台。
- 買戻し(4,500億円上限)+消却(8,592.98万株)+配当25円でEPSと需給を底上げ。
現場のイメージを一つ。地方の飲食チェーンがCPA運用と面談自動設定を導入すると、同額の広告費でも採用数が増えるケースが珍しくありません。この“小さな勝ち”を全国で幾万件と重ねるのがプラットフォームの醍醐味。私は、リクルートの勝ち筋を「現場の歩留まりをAIで底上げし続ける力」だと位置づけます。
※投資判断は自己責任で。本文の数値は最新開示・報道に基づきます。
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