eコマース+25%、広告+46%と高い伸びを示し、通期見通しを売上+3.75〜4.75%、調整EPS$2.52〜$2.62へ引き上げました。
「低粗利の箱売り」から、会員(Walmart+)×広告(Walmart Connect)×AI/データへと
収益の質を高める転換が現実のものになりつつあります。一方で、関税再燃や
自家保険コストの上振れなど、短期的な利益変動要因も無視できません。
分析対象の概要
Walmartは世界19か国で1万0,750超の店舗・クラブとECプラットフォームを運営し、
週あたり約2.7億人が利用する最大手の総合小売です。
ビジネスはWalmart U.S./Walmart International/Sam’s Clubの3本柱。
FY2025の売上高は$6,810億。2024年12月に完了したVIZIO買収でCTV(ネット接続テレビ)OSを取り込み、広告とコマースの連動を強化しています。
- ビジネスモデル:EDLP(毎日低価格)×オムニチャネル(店舗受取・即配)×マーケットプレイス
- 新収益:Walmart+(会員)、Walmart Connect(広告)、リビングルーム接点(VIZIO OS)
- 人員規模:全世界で約210万人(米国約160万人)
Q2 FY26 ハイライト(前年比)
指標 | 数値 |
---|---|
売上高 | $177.4B(+4.8% / 為替中立+5.6%) |
グローバルEC | +25% |
広告事業 | +46%(米Walmart Connect +31%) |
会員収入 | 世界で+15.3%(「会員&その他」全体+5.4%) |
粗利率 | +4bps(Walmart U.S.主導) |
通期ガイダンス | 売上+3.75〜4.75%、調整EPS $2.52〜$2.62 |
※単位B=10億ドル、bps=ベーシスポイント
3C+リスク分析
Company(自社)
Walmart U.S.は既存店+4.6%、EC+26%と堅調です。
Internationalは為替中立で+10%超と伸び、Sam’s Clubも会員収入が+7.6%。
決算構造では、広告・会員の高粗利が利益の質を押し上げる一方、自家保険(一般賠償)費用や一部の法務・再編費用がEPSを圧迫しました。
- 食品・ヘルス比率の高さが景気耐性を担保
- VIZIO/CTVで家のスクリーン→購買までの導線を獲得
- マーケットプレイス拡大で在庫を持たずに品揃え増、手数料収益を上積み
Competitor(競合)
- Amazon:広告が高成長、物流最適化で小売の粗利改善。クラウドと二枚看板
- Costco:年会費モデルの強力なキャッシュ創出。限定SKUとプライベートブランドで高効率
- Target:在庫・縮小(盗難)対応に苦戦、トラフィック回復に時間
Customer/Market(市場)
高金利・粘着的インフレ下で消費者は「価格×利便」を重視。店舗受取・即配の利便性は定着し、
CTV×小売データのリテールメディアがブランドの重要な出稿先に。Walmartは実購買データの解像度で優位を持ち、広告在庫の価値向上が続きます。
主なリスク
- 関税・地政学:補充在庫の関税コストが下期に重荷となる示唆
- 自家保険/労務費:労働市場の強さと訴訟動向で費用が変動
- 為替:Internationalの利益換算に影響
- 盗難(Shrink):一部地域で依然課題
SWOT分析
S|強み
- 週2.7億来店の巨大トラフィック×全国物流のコスト優位
- 食品・ヘルスの厚みでディフェンシブ
- 広告/会員/マーケットプレイスの高粗利エンジンが二桁成長
W|弱み
- 食品ミックス由来の営業利益率の薄さ
- 自家保険・店舗運営費の上振れでEPSがブレやすい
O|機会
- VIZIO×Walmart ConnectでCTVから購買までの統合
- Flipkart等、海外デジタルの伸長
- AIによる需要予測・在庫/補充・価格最適化の高度化
T|脅威
- 関税・規制・人件費の構造的上押し
- Amazon(広告/物流)・Costco(会員)の構造競争
財務分析(PL/BS/CF/株主還元:競合比較の視点)
Q2 FY26のPLは、売上+4.8%、粗利率+4bps。高粗利の広告・会員が牽引する一方、法務・再編と自家保険がEPSを抑制しています。
通期ガイダンスは売上・EPSともに上方修正されました。BS・CF面では在庫は健全域、オムニ運営と自動化投資へ資本配分を継続。株主還元は52年連続増配で2025年は年$0.94に13%増配。四半期配当は直近$0.235の支払い履歴です。
項目 | Walmart | Amazon | Costco |
---|---|---|---|
収益ドライバー | 食品×会員×広告、EC即配・店舗受取 | 広告×物流最適化+AWS | 年会費×限定SKU×PB |
成長の質 | 高粗利(広告/会員)が二桁成長 | 広告高成長、クラウド投資期 | 会員更新率の高さで超安定CF |
リスク | 関税・自家保険・人件費 | 投資負担/規制 | 仕入コスト・会員値上げ後の反応 |
※配当は会社発表ベース。各社の詳細はIR開示・決算資料をご参照ください。
セクター比較(米ディスカウント/クラブ/汎用小売)
- 景気耐性:食品・ヘルス比率の高いWalmart/Costcoが相対的に強い
- 成長余地:Walmartのリテールメディア×会員はまだ伸び代あり
- 評価論点:薄利大規模モデルの限界に、高粗利の新収益を重ねて利益体質を改善
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- 食品中心の安定トラフィックと価格訴求で不況耐性
- 広告/会員/MPの高粗利成長がEPSの下支え
- VIZIO×Walmart ConnectでCTV→購買の接点を強化
- 連続増配と自社株買いの総還元力
リスク
- 関税・規制の不確実性(下期コスト上振れ示唆)
- 自家保険/労務費の変動性
- Amazon/Costcoとの構造的競争圧力
中長期は「強気寄りの中立」。食品のディフェンスに、高粗利の広告/会員が積み上がる構図は明確。短期は関税・保険・人件費でEPSが振れやすいため、決算後の押し目や広告/会員のYoY二桁維持を確認しつつの段階的エントリーが合理的といえます。
まとめ
Walmartは「最大手×薄利大規模」の常識を塗り替え、リテールメディア×会員×AIで粗利の質を作り直しています。Q2 FY26ではEC+25%、広告+46%、会員収入+15.3%、通期ガイダンスも上方修正。
VIZIO買収によりCTVから店舗・アプリまでの購買導線を統合し、「価格だけでない体験価値」で
シェアを獲りに行く戦略が定着しました。
外生ショックに揺れつつも、“守りの小売”に“攻めの新収益”を重ねる現在の戦略が続く限り、EPSの逓増余地は十分と見ます。
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