クレジット/デビットの巨人・Visa(NYSE: V)は、規制強化と即時決済(A2A/RTP)拡大の二重波に晒されながらも、ネットワーク効果と付加価値(トークン/不正防止/データ)で成長を継続しています。
海外ではインドのUPIが月間2.0兆件規模(200億件)に到達し、カードを介さない即時決済の存在感が加速しています。
分析対象の概要
セクター/位置づけ:GICS再編以降、VisaはFinancials / Transaction & Payment Processing Servicesに分類(ITではない)。
- 時価総額:約$650–670B(2025年9月時点の各社推計レンジ)。
- ビジネスモデル:発行銀行(Issuer)と加盟店側(Acquirer)をつなぐ4者モデルのネットワーク。
- FY2024スケール:処理件数233.8B、決済額$13.2T。
収益は①サービス②データ処理③国際取引④その他−クライアント・インセンティブ控除後がネット収益、という構造です(詳細はIR資料参照)。
3C+リスク分析(Company / Competitor / Customer + Risk)
Company:事業内訳と成長ドライバー
Q3の成長はデータ処理/越境の伸びと件数増が牽引。Visaはカード消費に加え、Visa Direct(即時送金)やVAS(不正対策・トークン・データ)を拡充し、「ネットワーク・オブ・ネットワーク」戦略で非カードの資金移動も取り込み中。
- Visa Direct:FY2024で約100億件処理、到達エンドポイントは複数スキーム連携で数十億規模に拡大。
- 資本配分:FY2025 Q2に3,000億ドルの新規買戻し枠を承認。Q3も継続的な自社株買いと配当$0.59を実施。
Competitor:競合
- カードネットワーク:Mastercard(MA)、Amex(AXP)。トレーリングP/Eの目安はV≈33倍、MA≈39倍、AXP≈23倍。
- PSP:AdyenはH1 2025で売上+20%、EBITDAマージン50%と高効率を堅持。
- 非カード(A2A/RTP):各国の即時決済スキーム(UPI等)が台頭。
Customer:市場/顧客
Visaは200+の国/地域・数千の金融機関・PSP/ゲートウェイと接続し、消費(C)/商用(B2B)/送金など用途別に拡張。
加盟店・PSP・発行体の三面で規模の経済とネットワーク効果が働きます(4者モデル)。
Risk:外部リスクの輪郭
- 独禁/規制:DOJ訴訟の棄却申立否決(2025/6/23–24)で審理継続。小売陣営とのスワイプフィー係争も長期化。
- A2Aの侵食:UPIは2025年8月に月間200億件へ。FedNow等の普及も進展。
- マクロ感応:越境・旅行の循環減速時に収益弾性が低下。
SWOT分析
Strengths(強み)
- 二面市場(発行体×加盟店×消費者×PSP)の強固なネットワーク効果。
- 高マージン構造(資産軽量)と越境/CNP拡大の追い風。
- VAS/Visa Directで収益多角化を加速。
Weaknesses(弱み)
- 規制/訴訟に構造的に晒される(手数料、ルーティング、独禁)。
- クライアント・インセンティブ増でネット収益伸長が圧迫され得る。
Opportunities(機会)
- A2A/RTP向けの付加価値(不正/認証/トークン/データ)の外販。
- B2B/商用カードや政府支払、即時送金など未開拓TAM。
Threats(脅威)
- UPIなど低コスト国内スキームの国際拡張、BigTechウォレットの囲い込み。
- 景気後退や旅行停滞時の越境鈍化。
財務分析(PL/BS/CF/株主還元)
損益(PL)
- FY2025 Q3:ネット収益$10.2B(+14%)、GAAP EPS $2.69(+12%)、Non-GAAP EPS $2.98(+23%)。
- KPI:決済ボリューム+8%、越境(除域内EU)+11%、処理件数+10%。
貸借(BS)・CF
ネットキャッシュ創出力は強靭。FY2025年を通じ自社株買いと配当による株主還元を継続。
Q2には3,000億ドルの新買戻し枠を承認、Q3でも四半期配当$0.59を継続。
株主還元の近況
- 自社株買い:2025年4月に$30Bの新規承認。
- 配当:2025年7月/8月の宣言・権利確定で$0.59/株を支払い予定/実施。
競合比較(概算、TTMの目安)
| 銘柄 | モデル | トレーリングP/E |
|---|---|---|
| Visa | ネットワーク | 約33倍 |
| Mastercard | ネットワーク | 約39倍 |
| American Express | 発行・与信一体 | 約23倍 |
出所:Yahoo! FinanceのKey Statistics(2025年9月時点)。
なおPSP代表のAdyenはH1 2025でEBITDAマージン50%と高効率だが、ネットワークへの依存と価格競争の波に敏感。
セクター比較:ネットワーク vs プロセッサ vs 銀行 vs A2A
- 決済ネットワーク(Visa/MA):資産軽量・高マージン。越境/CNPのミックス改善が長期追い風。ただし規制イベントのヘッドライン感応度は高い。
- PSP(Adyen等):機能/UXで差別化しやすく高成長余地は大。直近は関税・為替の逆風により見通しを微修正。
- 銀行/与信モデル(AXP):金利と信用コストに感応。景気局面でボラが高い。
- A2A/RTP:UPIは月間200億件の大台を突破。コスト優位で一部ユースケースを侵食し得るため、カード網は不正/認証/チャージバック等の付加価値で対抗。
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- FY2025 Q3は二桁増収&KPI堅調:ボリューム/越境/件数の三拍子。
- VAS/Visa Directなど非カード領域の拡張で収益の厚みが増す。
- 強いFCFと巨額買戻しで一株価値の複利成長が期待。
リスク
- 独禁/規制:DOJ訴訟の審理継続、スワイプフィー係争の長期化。
- A2A浸透:UPI等の台頭により、一部ユースケースで単価圧力。
- ミックス変化:クライアント・インセンティブ増や越境減速局面で伸びが鈍化し得る。
Visaは長期コア保有に適した決済インフラ。もっとも、P/Eは常にプレミアム圏で推移(V≈33倍)するため、規制ヘッドラインのショックを押し目候補として段階的に積み上げるのが合理的と考えます。
まとめ
なぜ今Visaを語るのか。それは、規制×即時決済が決済インフラの価値を再定義しているからです。
Q3実績は堅調で、FCF/還元も盤石。一方で独禁・手数料・A2Aは向こう数年の常在リスク。
Visaはネットワークのスケールと付加価値(不正防止/トークン/データ)で守りつつ、
Visa DirectやB2Bを押し上げる「ネットワーク・オブ・ネットワーク」への進化で攻める。
「強いが高い」—それがVisaの本質であり、長期コア+イベント押し目買いが現実解だと考えます。
※本記事は公開情報に基づく執筆であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。


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