指数(FTSE/MSCI/S&P)、小型株の扱い、中国や韓国の取り扱い、経費率、流動性——これらの組み合わせでリスク・リターンの性格が大きく変わります。
本記事では、Schwab Emerging Markets Equity ETF(ティッカー:SCHE)を最新データで深掘りします。
2024〜25年のインド・台湾主導の上昇と中国エクスポージャの再評価が同時進行しており、SCHEは「FTSE方式×大中型」という設計で韓国を含まない(FTSEは韓国を先進国扱い)一方、経費率0.07%とコスト競争力が高いのが最大の魅力であることから一定の注目すべき背景があります。
結論から言えば、“新興国(=EMコア)を低コストで押さえたい・韓国は別枠でいい”という投資家にとって、SCHEは実用的な主力候補になり得ます。
分析対象の概要
- 正式名称:Schwab Emerging Markets Equity ETF(SCHE)
- 運用会社:Schwab Asset Management
- ベンチマーク:FTSE Emerging Index(大・中型中心、FTSEの国分類に準拠)
- 経費率:0.07%
- 純資産総額:約110億ドル(2025/09/10時点)
- 組入銘柄数:約2,118
- 30日SEC利回り:2.19%(2025/09/09)
- 分配:年2回の実績(例:2024年12月、2025年6月)
- 流動性指標:30日中央値スプレッド0.03%
- 10年年率リターン(NAV):+7.06%(指数+7.32%)
- 国別上位(2025/06/30):中国32.69%、インド21.64%、台湾19.97%
- セクター上位(2025/06/30):金融24.22%、情報技術21.31%、一般消費13.14%
上記はすべて公式サイトの「Fund Details/Portfolio/Distributions/Performance」からの最新値です。FTSEは韓国を先進国扱いのため、SCHEには韓国が入らない点がMSCI系と大きく異なります(詳細は後述)。
3C+リスク分析(Company / Competitor / Customer+Risk)
1) Company(自社=ファンド特性)
- 設計思想:FTSE Emerging Indexをできるだけ厳密にトラック。FTSE GEISの一部で、大・中型を中核とするシンプルなカバレッジ。小型株をフルに取りにいかないぶん、売買コストや指数再構成の追随負荷が抑えられる設計です。
- 運用の安定性:ポートフォリオ回転率7.10%と低め、スプレッド0.03%と実務面の扱いやすさも魅力。トップ保有はTSMC/Tencent/AlibabaなどEMメガテックが中心。
2) Competitor(競合)
- VWO(FTSE方式・All Cap/中国A含):経費率0.07%。SCHEより小型株まで広く取り、中国A株を組み入れるAll Cap China A Inclusionがベンチマーク。より“総合型”。
- IEMG(MSCI方式・IMI):経費率0.09%、大中小型を包括、韓国を含む(MSCIは韓国を新興国扱い)。純資産約1,054億ドルと規模・出来高面で最上位クラス。
- SPEM(S&P Emerging BMI):経費率0.07%。S&P方式で大中小型を広くカバー、分配は半期ごと。コスト面でSCHEと同等。
- EMXC(MSCI ex-China):中国を外した新興国ベータ。経費率0.25%。“中国は別枠で”が明確な場合の道具立て。
3) Customer(顧客像)
- 低コストを重視しつつ韓国の扱いや小型株の有無に一定の方針があり、中国エクスポージャは持つが過度に偏らせたくない層。
- EMを“コア1本”で持ちたいが、VWOのAll Capまで広げる必要はないと考える投資家。
+Risk(主なリスク)
- 中国特有の政策・規制・地政学:SCHEは中国比率が3割超。セクター・銘柄分散が効いてもショック時のドローダウンは大きくなり得る。
- 指数差リスク:FTSE vs MSCIの構成差(韓国の有無・小型株の有無)で中長期のトラック差が生じる可能性。
- 為替:円建て投資家はドル円の変動影響が大きい。
SWOT分析
Strengths(強み)
- 経費率0.07%と低コスト。
- FTSE方式×大中型のシンプルな設計で扱いやすい。
- 流動性良好(中央値スプレッド0.03%)、回転率低めでコスト抑制に寄与。
Weaknesses(弱み)
- 小型株を取り切らないため、IEMG/VWOほどの裾野の成長は拾いきれない可能性。
- 韓国が入らない点は“MSCI標準”に慣れた投資家には違和感になり得る。
Opportunities(機会)
- インド・台湾の構造的伸び(デジタル化・半導体サプライチェーン)を大中型中心で効率的に捉えられる。
- 中国のバリュエーション是正や政策支援局面が来れば、中国ウェイトの高さがプラスに反転。
Threats(脅威)
- 中国の規制強化・地政学リスクの長期化。
- 指数間の性能差が積み上がった場合、All Cap/IMI型に劣後する局面。
財務(ファンド特性)分析:パフォーマンス/コスト/配当
- 長期成績:直近10年でSCHE +7.06%(年率)/指数+7.32%。トラッキング誤差は小ぶり。3年・5年でも概ね良好。
- コスト:0.07%。VWOも0.07%、IEMGは0.09%、SPEMは0.07%。ほぼ業界最低水準帯。
- 流動性:SCHEの30日スプレッド0.03%は個人も使いやすいレンジ。IEMGは0.02%とさらに良好(規模差)。
- 分配:半期ごとの実績(6月・12月が中心)。30日SEC利回り2.19%。EM配当は為替・景気・セクター構成で変動。
参考:IEMGはIMI(大中小型)でAUMも桁違い、MSCI方式で韓国を含む(MSCI EMの国比率で韓国約11%)。広さ重視ならIEMG、“FTSE×All Cap×中国A含”ならVWO、ex-ChinaならEMXC、コスト横並びのSPEMはS&P方式で小型まで広い。
セクター比較(設計差が生む色合い)
- SCHE:金融・IT・一般消費で約58%(2025/06/30)。TSMC・Tencent・Alibabaが上位。中国・インド・台湾に厚い配分。
- IEMG(MSCI/IMI):MSCI EMは中国・台湾・インド・韓国が四大柱。韓国サムスン等が入る分、テクノロジー寄りの色も強い。
- VWO(FTSE/All Cap):小型株まで広い裾野と中国A含有でより“総合型”。
- SPEM(S&P/BMI):S&P方式の大中小型。コストはSCHE同等で、指数の違いで微妙な国・セクター配列も異なる。
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- 超低コストでEM大中型の王道ベータが取れる
- 韓国を含まないため、韓国は先進国枠で別管理したい投資家に親和的
- 流動性・スプレッドとも実務上ストレスが小さい
リスク
- 中国エクスポージャが相対的に高い(約33%)。中国のマクロ・規制・地政学の影響を強めに受ける
- 小型株の取りこぼし(IEMG/VWO/SPEMに比べて裾野が狭い)
- 指数差の積み上げで長期成果に差が出る可能性(FTSE vs MSCI vs S&P)
まとめ
2025年の新興国は“中国の重し”と“インド・台湾の牽引”が同居する局面。SCHEはFTSE方式×大中型というミニマルで低コストな設計で、中国を適度に抱えつつ韓国は先進国サイドに分離できる、現実解としてバランスの良い一本です。
- コア派:まずはSCHE。
- 広さ重視:VWO(All Cap) or IEMG(IMI+韓国含む)。
- 中国回避:EMXC(ex-China)。
- 同等コスト×別指数:SPEM(S&P BMI)。
「EMコアはSCHE、必要に応じてサテライトで微調整」。指数を替えるより役割で組むほうが、構造と理由を持った運用になり、長く腹落ちします。
主要出典(最新・一次情報)
- SCHE公式:経費率0.07%、AUM、SEC利回り、10年成績、構成国・セクター、分配実績、スプレッド・回転率 等。
- FTSE分類:韓国は先進国扱い(FTSE Country Classification 2025)。
(本記事は2025年9月12日<JST>の公開情報を参照)
コメント