配当利回りの厚みと“現金配当額で重み付け”する独自設計が、伝統的な時価総額加重のEM指数とはまったく異なる性格を生みます。本記事では、いま語るべき理由と構造的な勝ち筋/つまずきやすい落とし穴まで、深掘りして検証します。
分析対象の概要
- 正式名称:WisdomTree Emerging Markets High Dividend Fund(ティッカー:DEM)
- 運用会社:WisdomTree
- ベンチマーク:WisdomTree Emerging Markets High Dividend Index(高配当銘柄に特化、配当額でファンダメンタル加重)
- 上場:2007年7月13日
- 経費率:0.63%
- 純資産:約31.9億ドル
- 直近分配利回り(Fund Distribution Yield):4.91%
- SEC30日利回り:4.38%(いずれも2025/09/10時点、運用会社公表)
リターン実績(2025/7月末・月次)
1年+11.3%、3年年率+14.1%、5年年率+10.5%、10年年率+6.6%(NAV)と、配当再投資を含むトータルで安定感のある推移。直近YTDも2ケタ台を維持しています。
ポートフォリオの素顔
- 国別上位:中国25.7%、台湾19.2%、ブラジル11.2%、韓国6.7%、サウジ5.6%(2025/09/10)
- セクター上位:金融28.2%、エネルギー12.6%、情報技術11.0%(2025/6月末、プレゼン資料)
- 上位保有:中国建設銀行、Vale、MediaTek、サウジアラムコ、ペトロブラス等(2025/6月末)
- バリュエーション:P/E約9.3、P/B約1.13、配当利回り約5.9%(組入株ベース、2025/09/10)
資源国×金融×中国・台湾の配当主力に厚みが出る設計。コアEM(VWO/IEMG)と比べ、よりバリュー&配当の“濃度”が高いのがDEMです。
3C+リスク分析(自社・競合・市場・リスク)
Company(自社=DEM)
DEMは、「高配当」に的を絞り、現金配当総額でウェイトを決めるファンダメンタル加重。高配当=成熟・資本効率の改善・国家系企業(SOE)を含む大型株の比率上昇、という連鎖が起こりやすく、ディフェンシブなインカムと資源価格の上振れへの感応度を同時に取りに行く設計です。
効用
- 下押し局面での配当クッションが効きやすい
- 低P/E・低P/Bに寄るため、バリュー・リバージョンの恩恵を受けやすい
- EMの総還元強化(配当+自社株)トレンドを取り込める
Competitors(競合)
- VWO(FTSE EM、時価総額加重、経費率0.07%、利回りおおむね2.6〜2.7%):超低コストの王道コア。バリュー濃度は薄め。
- IEMG(MSCI EM IMI、経費率0.09%):中小型も含む広めのEMコア。コストは依然最安級。
- EMXC(MSCI EM ex China、経費率0.25%):中国を外すことでガバナンスや政策リスクを抑えたい投資家向け。
- DVYE(iShares EM高配当、経費率0.50%):同じ高配当でも指数・銘柄が異なり、配当水準・国配分に差。
位置づけ:VWO/IEMG=低コストのEM“母体”、DEM/DVYE=配当因子の“増幅器”。コア×サテライトの考え方で、DEMはサテライト比重をやや厚めにとる戦略が機能しやすい相場が続いています。
Customer(読者=投資家)
- 定期的な分配収入を得たい人
- EMのバリュー・資源・金融に賭ける明確な仮説を持つ人
- コアEMに因子(配当)を足して総合リターンを底上げしたい人
Risks(固有リスク)
- 国・セクター集中:中国・台湾・ブラジル、金融・エネルギーなどのウェイトが高く、ガバナンス/政策/資源価格の変動に影響されやすい。
- SOE(国有企業)エクスポージャー:アラムコや中銀系など、国家意向で配当政策や資本配分が変わる可能性。
- コスト差:コアEMの0.07〜0.09%に対し、DEMは0.63%。超長期ではコスト劣位が複利で効く点は常に意識。
SWOT分析
Strengths(強み)
- 配当利回りが厚い(直近4.91%)ため、リターン源泉が複線化する
- ファンダメンタル加重により割安株のウエイトが自然に上がる設計
Weaknesses(弱み)
- 超低コスト・広域分散のコアEMに比べコスト高
- イノベーション主導の成長株ラリーには乗り遅れやすい(配当重視ゆえ)
Opportunities(機会)
- 金利低下・資源高・EM株主還元の3点セットが追い風
- 政策改革(配当性向引上げ、税制優遇)で配当文化が強化される余地
Threats(脅威)
- 中国の政策・不動産動向、地政学、資源価格下落
- EM通貨の米ドル高耐性が低い局面での為替逆風
構成分析
- 分配実績:2025年は3月$0.42、6月$0.575の配当をすでに実施。過去年間分配は2024年$2.12、2023年$2.24、2022年$3.07、2021年$2.54と、景気・資源価格に連動しつつも厚みを維持。
- トータルリターン:10年年率+6.6%(NAV)。同期間のMSCI EMと大差ないが、直近3〜5年は配当×バリューが奏功して上回る局面が目立つ。
- コスト比較:DEM 0.63%に対し、VWO 0.07%、IEMG 0.09%、EMXC 0.25%、DVYE 0.50%。因子の“濃度”を買う代わりにコストを上積みする設計と割り切れるかが肝。
- 利回り比較の現実:VWOの実効利回りは足元で約2.6〜2.7%と、DEMとの差は依然大きい(配当政策と構成の違い)。
競合比でみると、配当の厚み=DEM、コストの軽さ=VWO/IEMG、Chinaリスク緩和=EMXCという整理が腹落ちします。
セクター比較(EM高配当 vs. コアEM)
- 金融・エネルギー比率:DEMは金融が約28%、エネルギーが約13%とコアEMより高め。資源高やスプレッド縮小局面で相対優位。
- 情報技術:コアEM(TSMC、騰訊、アリババ等の時価総額比重が高い)に比べやや控えめで、グロース主導の上昇局面では取り残されるリスク。
- 国配分:インド比率はコアEMより軽く、中国・ブラジル・サウジが厚め。政策リスク/資源サイクルを取りに行く覚悟が求められます。
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- 配当利回りの厚みによる下落耐性と複利効果
- バリュー回帰・資源高シナリオで相対的に勝ちやすい
- コアEMの上に“因子トッピング”として重ねやすい(戦略の明確化が容易)
リスク
- SOE比率の高さゆえの政策リスク(配当政策・資本配分が政治に左右される)
- コスト差の複利影響(超長期保有で効いてくる)
- 国・セクターの偏りによるボラティリティ
使い方の実例(モデル)
- コア70%(VWO/IEMG)+DEM30%:総利回りを底上げしつつ、コストも抑制
- EMXC(ex China)50%+DEM50%:中国の政策リスクを薄めつつ、“配当濃度”は維持
まとめ
私はDEMを“目的のはっきりしたサテライト”として評価します。
理由は以下の3つです。
1) 配当の厚み(4.9%)とバリュー寄りの設計が、いまの相場環境(資源高・金利低下・還元強化)に合っている。
2) 構造が明快(配当額加重)で、投資仮説が立てやすい。勝つべき相場が明確。
3) ただしコスト0.63%と国・セクター偏重は「代償」。コアとの組み合わせで意図的に取りに行くべきETF。
EMは長い間、米大型グロースの陰に隠れてきました。しかし、分散の本質は「異なるエンジン」を持つこと。DEMは配当×資源×金融というEMのもう一つのエンジンです。配当を“太く”取りながらEMにアクセスしたい投資家に、私は現時点でも有効な選択肢だと考えます。
出典・注:本記事の数値は運用会社および各社公式サイト等の最新公表値に基づく(2025/09/10時点のDEMファンドページ、2025/06末のプレゼン・ファクトシート、競合ETFの経費率・利回り・スケジュール等)。主要参照:WisdomTree DEMファンドページ/ファクトシート・プレゼン、Vanguard VWO・iShares IEMG/EMXC・iShares DVYE、他。
コメント