過去12カ月前後で相対的に強かった銘柄は、統計的にその後もしばらく優位を保ちやすい——このシンプルな行動ファイナンスの歪みを、低コストかつ分散で取りにいくのがVanguard U.S. Momentum Factor ETF(ティッカー:VFMO)です。
本記事では、最新データと競合比較を基に、投資判断に必要な構造を掘り下げます。
モメンタムを“戦略として”長期ポートフォリオに組み込むなら、VFMOは第一候補になり得ます。ただし、回転の速い因子特性ゆえのリスク管理が肝です。
分析対象の概要
VFMOは米国株のモメンタム因子に特化したアクティブETF。Vanguardの定量モデルが大型〜小型まで広く銘柄をスクリーニングし、直近の相対パフォーマンスが強い銘柄群にエクスポージャーを構築します。信託報酬(経費率)は0.13%。
組入れ銘柄数は約658、総資産規模は約11億ドル。セクター配分は金融20.6%、情報技術16.2%、資本財15.5%、ヘルスケア14.1%など、広く分散。上位にはPalantir、Spotify、Netflix、Philip Morris、DoorDash、Williams、Gilead、GE Vernova、AT&T、Walmart、Fortinet、3M、Boston Scientific、Tesla、Broadcom、T-Mobileなどが並びます。
VanguardのファクターETF群の設計思想として、ルールに基づく分散・流動性管理と明確な因子定義(モメンタム測定に複数期間のトータルリターンなどを用いる)が採用されています。
3C+リスク分析(会社・競合・市場+リスク)
Company(運用主体の強み)
- 低コスト文化:投資家所有の独特な会社構造を背景に、ETFのコスト水準は業界最低水準級。VFMOも0.13%と、アクティブ運用ながらパッシブ並み。
- モデルの一貫性:大型〜小型までの全域からモメンタム銘柄を抽出、ルールベースで分散と流動性を担保。恣意性を抑制しやすい設計。
Competitor(競合:MTUM ほか)
- 最大手の指標連動型MTUM(iShares MSCI USA Momentum Factor)は経費率0.15%。VFMOよりやや高コストで、MSCIのインデックスをトラックします。2025年時点でMSCIのSR Variantは四半期リバランスへ強化。
- 違いの本質:
VFMO=アクティブ(定量モデル+分散ルール)/MTUM=パッシブ(MSCIインデックス、四半期リセット)。
リバランス頻度や選定自由度の違いが、回転スピード・入替え感度・税効率に差を生みます。
Customer/Market(投資家・市場)
- 因子投資の再評価:2024〜25年にかけて、アクティブETF全体の拡大とともにファクター戦略も再注目。モメンタムは「トレンドの継続を素直に取る」用途で、グロース相場やセクターローテーション局面で機能しやすい一方、反転局面のドローダウンが課題。
Risk(特有リスク)
- 反転リスク:金利やマクロの転換点で、直近強かった銘柄が一斉に巻き戻る可能性。
- 入替えコスト:頻繁なリバランスは取引コスト・課税イベントを誘発し得る。VFMOは分散とルールで緩和を試みるがゼロにはならない。
- セクター偏り:直近の勝ち組セクターに配分が寄る構造(例:金融・ITの比重が高い時期)。相場付き次第で短期の相関上昇に注意。
SWOT分析
Strengths(強み)
- 低コスト(0.13%)×アクティブの稀有な組合せ。
- 大型〜小型までの広い投資範囲と分散ルールで、単一銘柄への依存を抑制。
- 組入れ数が多く(約658)、モメンタムの“取りこぼし”を減らす設計。
Weaknesses(弱み)
- モメンタム反転の急落に脆弱。
- 入替え負担(トレード・税)が不可避。
- AUMは大型競合(MTUM)に及ばず、ベンチマーク型ほどの知名度・板の厚みは弱い。
Opportunities(機会)
- アクティブETF拡大の追い風。投資家が指数+因子の組合せを志向する流れで採用余地。
- 四半期リバランスのMTUMに対し、VFMOは独自モデルの柔軟性で差別化の余地。
Threats(脅威)
- 相場の主役交代が頻発する年は、入替え追従でコスト上振れ。
- 競合の更なる低コスト化や、マルチファクターETFへの資金シフト。
構成分析
- コスト:VFMO 0.13% vs MTUM 0.15%。わずかな差でも長期では効く(Vanguardの“コストの複利”警鐘は一貫)。
- 分配:直近12カ月利回りは概ね0.8〜1%台で推移。2025年6月24日に配当実績の記録があり、四半期分配が基本。利回り目当てのプロダクトではなく、値上がり益重視。
- 規模・流動性:VFMOの総資産約11億ドル、保有約658銘柄。大型・中型中心のMTUMに比べ、時価総額レンジの広さと銘柄数の多さが特徴。
競合対比(要点)
- 投資手法:アクティブ(VFMO) vs インデックス(MTUM)。
- リバランス:VFMOはモデル裁量の余地、MTUMは四半期リセットで因子純度を維持。
- コスト:0.13% vs 0.15%。差は小さいが長期で効く。
セクター比較(現況の姿)
VFMOの現行配分は金融20.6%、情報技術16.2%、資本財15.5%、ヘルスケア14.1%、一般消費9.4%、通信7.6%、生活必需品6.4%、エネルギー3.9%など。超ディフェンシブ(公益)比率は0.1%と極小。これは“最近強い群”に寄るモメンタムの性格を映しています(2025/9/12時点)。
一方MTUMは四半期ごとにMSCIが入替し、直近の勢力(例:金融・情報技術・通信など)へ迅速にウェイトを移しやすい構造です。
位置づけの意義
セクターは“結果”として動くため、モメンタムETFはセクター・スタイルに自動で乗り換える“トレンド追随エンジン”。投資家はセクター戦略を能動的に回す手間を外部化できます。
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- 低コストで因子プレミアムを狙う:0.13%はアクティブ因子ETFとして極めて良心的。
- 機械的な入替えで“感情”を排除:勝ち続けるものに素直に乗る規律。
- 広い時価総額レンジ+分散で、個別誤りの影響を希釈。
リスク
- 反転ショック:金利・業績サイクルの変曲点で一斉に逆風。
- 追随相場の行き過ぎ:人気化したテーマに乗り過ぎるリスク。
- 入替え由来のコスト・課税:長期では無視できない。
こう使う(実務的提案)
- コア(VTI/VOO等)+サテライト(VFMO 10〜20%)の“バランス型因子ブースト”。
- MTUMとの二刀流も一案:VFMO=柔軟なアクティブ、MTUM=規律的な四半期リバランス。相関が完全一致ではないため、因子取りこぼしの低減が期待できます。
まとめ
2025年はアクティブETFの台頭と資金シフトが進み、“指数+因子”の組合せがより一般化しています。その中で低コスト×分散×規律を兼ね備えたVFMOは、モメンタムという“市場の癖”を長期戦略に昇華する有力な手段です。
よって、コアの上にサテライトでモメンタムを重ねる、というのがひとつのアプローチとなります。
ただし、反転リスクと入替えコストは常に意識し、定率リバランスや段階的な利確ルールを設ける運用体制が前提です。
ポイント
・VFMO = 低コスト0.13%の“定量アクティブ”モメンタムETF。
・広い投資範囲と分散ルールで因子を拾いにいく設計。
・現況は金融・IT偏重など、トレンドの“今”を映す。
・MTUM(四半期リセット0.15%)との併用で、因子の取りこぼしを抑える選択肢。
参考出典(主な最新根拠)
- Vanguard U.S. Factor ETFs Prospectus(2025/3/28):VFMOの目的・手法・コスト(0.13%)。
- Charles Schwab(2025/9/12時点):VFMOの最新セクター配分、保有数、AUM、上位銘柄。
- iShares(MTUM公式):経費率0.15%、四半期リバランス(MSCI SR Variant関連)。
- 業界トレンド:アクティブETF拡大(2025年)。


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