ドラッグストア業界は「物流×小商圏×非耐久消費」の構造から景気に左右されにくい一方、出店競争・人件費・薬価改定といった構造リスクを常に抱えます。
そんな中でサンドラッグ(東証P:9989)は、ドラッグストア×ディスカウント(ダイレックス)という“二刀流”モデルで、売上・利益ともに着実な右肩上がりを続けてきました。
本記事では「なぜ堅いのか?」を3C+リスク/SWOT/財務(PL・BS・CF・株主還元)の順に深掘りし、競合・セクター比較まで踏み込みます。
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分析対象の概要(セクター・規模・位置づけ・ビジネスモデル)

  • セクター:小売業(ドラッグストア)
  • 売上規模:2025年3月期 売上高8,018億円、営業利益444億円、純利益307億円。いずれも増収増益で過去最高圏。
  • 時価総額5,400億円台、予想配当利回り約2.9%(2026/3期会社予想131円)。
  • 店舗・業態:グループ計1,542店(25年3月末)。うちドラッグストア1,124店/ディスカウント418店
  • ビジネスモデル
    • 薬・化粧品・日用品を扱うドラッグストア事業と、食品・日用品中心のディスカウント事業(ダイレックス)の双発エンジン。景気局面に応じて需要の波を相互に緩和するポートフォリオ。
    • 調剤は比率がまだ小さく成長余地(25/3期で売上構成2%程度)。

ドラッグストア大手の再編・規模競争が一巡し、“収益性と資本効率”での差が明確になりつつあるため、サンドラッグは粗利を過度に捨てないEDLP(常時低価格)×オペ効率で同業の激戦下でも利益率を確保している点が投資家としての評価ポイントです。

3C+リスク分析(自社・競合・市場+リスク)

Company(自社:事業内訳と仕組み)

  • 収益の柱
    • ドラッグストア:美粧・一般薬・日用品の回転率×SKU管理で安定。
    • ディスカウント(ダイレックス):食品・日用品のボリューム販売でトラフィックを稼ぎ、全社の固定費吸収を助けています。
  • オペレーション
    • 標準化・物流最適化(広域の配送拠点・共同仕入れ)で販管費を抑制。
    • PB(プライベートブランド)と直輸入の拡大で粗利を下支えしています。
  • 調剤
    • まだ構成比は小さいが、併設薬局を増やし処方箋枚数で伸長。医療需要の構造的増加を取り込む布石となっています。

Competitor(競合)

売上上位はウエルシア/マツキヨココカラ/スギHD/ツルハ/コスモスなどが占めており、
サンドラッグは売上6位前後のポジションとなっています。

  • マツキヨ:美容強みで高粗利
  • ウエルシア・スギ:調剤比率が高めで医療モメンタムを取り込み。
  • コスモス:食品に厚い“スーパー型”EDLPで客数ドライブ。
  • サンドラッグ:ディスカウント併営でフットフォールを確保しつつ、利益を守る運営

Customer/Market(市場)

  • 高齢化・共働き増で「近場×時短×ワンストップ」需要が拡大。
  • 化粧品・インバウンドは回復だが、化粧品は景況感に感応。食品はディスカウント型が取り込みやすい。
  • ECとの競合は日用品で強まる一方、“今すぐ必要”需要・調剤・相談は来店優位。

リスク(構造・運営)

  • 薬価改定・調剤報酬改定:調剤伸長局面でも単価圧力。
  • 賃上げ・人手不足:労務コスト上昇で販管費率が上振れしやすい。
  • ECと価格競争:特定カテゴリで粗利圧力。
  • インフレ×値上げ転嫁難:低価格志向の強い商圏でマージン希薄化。
  • 出店の質:過度なスクラップ&ビルドは減損・キャッシュ流出リスク。

SWOT分析

Strengths(強み)

  • 二本柱(ドラッグ×ディスカウント)の需要分散で景気・カテゴリ波のボラを抑制
  • 標準化オペ/物流・仕入れのスケール販管費を抑制
  • 首都圏×西日本に強みが分散し、地理ポートフォリオが効いている。

Weaknesses(弱み)

  • 調剤比率が相対的に低いため、医療モメンタムを最大化できていない。
  • ディスカウント強化は粗利率の下押しと紙一重。

Opportunities(機会)

  • 併設薬局の増設在宅・健康相談の深掘り。
  • PB・直輸入の拡大、D2Cコスメなど高付加価値カテゴリの強化。
  • 出店余地:郊外ロードサイドや再開発エリアでのドミナント。

Threats(脅威)

  • 薬価・報酬改定の継続、最低賃金上昇
  • ECプラットフォームの台頭による価格比較の常態化。
  • 同業の大型再編で仕入れ交渉力が相対的に見劣りする局面。

財務分析(PL・BS・CF・株主還元:競合と比較)

PL(損益計算)

  • 25/3期:売上8,018億円/営業利益444億円/純利益307億円。営業利益率は概ね5%台半ば規模と効率の両立が見て取れる。
  • セグメント構成(売上構成):ドラッグ約60%/ディスカウント約40%。ディスカウントで客数を稼ぎ、全社の固定費回収に寄与。

BS(貸借対照)

  • 総資産4,440億円/純資産2,697億円自己資本比率約61%財務の堅さが際立つ。
  • 有利子負債350億円程度だが、ネットキャッシュは依然潤沢域。過度なレバレッジに依存しない。

CF(キャッシュフロー)

  • 25/3期:営業CF約411億円/投資CF▲353億円/財務CF▲106億円内部創出>維持投資+成長投資の範囲内で推移。

株主還元

  • 1株配当130円(25/3期)→会社予想131円(26/3期)利回り約2.9%。配当性向は上がってきたが、成長投資と両立

競合ざっくり比較(収益力の“立ち位置”)

売上順位は上位グループだがトップではない。
利益率は、粗利の高い美容特化(マツキヨ)には及ばない一方、食品寄りのボリューム型(コスモス)よりも利益のブレが小さい構造
ディスカウント併営の量と質のバランスがサンドラッグの“色”。

セクター比較(業界内での相対評価)

  • 売上ランキング:ウエルシア(約1.28兆円)/マツキヨココカラ(約1.06兆円)に続き、8,000億円台の大手グループ。
  • 店舗数1,542店は大手の中位規模。機動的な出退店と改装(年90新規・98改装・21閉店)で生産性を最適化。
  • ビジネスモデルの独自性:調剤高比率や美容特化で戦う企業が多い中、ディスカウントのダイレックスをグループに持つこと食品トラフィック×ドラッグの粗利を掛け算できる点は相対優位。

投資家にとってのメリットとリスク

メリット

  • 業態分散(ドラッグ×ディスカウント)で景気やカテゴリの波に強い。
  • 堅いBS・高い自己資本比率でダウンサイドを抑制。
  • 安定増配傾向×実効利回り約2.9%“守りの配当株”としても機能。
  • 調剤の伸長余地(枚数増)により、ミックス改善のアップサイドが残る。

リスク(投資判断で見るべき“問い”)

  • 薬価・報酬改定で調剤の利益が想定どおり乗るか?
  • 賃上げトレンド下で、EDLPと粗利のバランスをどう保つか?
  • EC×価格比較の常態化に対し、PB・直輸入・体験価値(相談・ヘルスケア)で差別化できるか?
  • 出店の質(ROI)と撤退判断の機動性を維持できるか?

まとめ

サンドラッグは「回す(ディスカウント)×稼ぐ(ドラッグ)」の二刀流利益の質を守りながら伸びる稀有なモデルです。
財務は堅く、配当も着実。競合が巨大化する中でも、過度に粗利を捨てない運営哲学と標準化オペが効いています。

投資スタンスとしては、(1)賃上げ・薬価の影響が販管費・粗利にどう出るか、(2)調剤の増設ピッチ、(3)ダイレックスの既存店動向を四半期ごとに点検しつつ、押し目で“守りのコア”として拾うのが妥当と考えます。
「安さだけでなく“運営力で勝つ”ドラッグストア」。この地味だが強い構造こそが、今後の長期複利を支えると私は見ています。

主要出典:2025年有価証券報告書、決算・IR資料、外部データベース等。数値は特記ない限り2025年3月期実績または直近公表データ。