【2025版】Vertiv(VRT)徹底分析|AI冷却×電力の覇者、将来性

資本財セクター
生成AIの爆発で、データセンターは「電力×熱」という二つの制約に正面から向き合わざるを得なくなりました。GPU集約ラックの電力密度は一気に上がり、40kW超〜場合によっては100kW級という“新常識”が広がっています。
空調・電力・ラックという土台を提供するのが米Vertiv(VRT)であり、2025年は同社の受注・売上が再加速し、通期ガイダンスも上方修正。背後にはAI案件の厚いパイプラインと膨らむバックログがあります。
本記事では、「なぜVRTなのか、なぜ今なのか」を構造から掘り下げ、投資妙味とリスクを評価します。

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分析対象の概要

セクター/ビジネス
Vertivはデータセンター、通信ネットワーク、商工業向けの重要インフラ(電源・熱マネジメント・ラック・モジュール・サービス)を設計・製造・保守する資本財セクターのグローバル企業。
主力はAC/DC電源、UPS、スイッチギア、バスダクト、液冷を含む熱マネジメント、統合モジュール、ラック/コンテインメント、KVM・監視など。
世界40か国超で展開し、サービス拠点300超・サービスエンジニア約4,000名という体制で稼働率を支えます。

規模
2024年売上高は約80.1億ドル
地域別売上は米州56%、APAC22%、
EMEA22%。
2024年末の受注残は約71.8億ドル
2025年7月時点では受注積み上がりで約85億ドル、同四半期のブックトゥビルは約1.2倍まで拡大。時価総額は約610億ドル(2025年10月初旬)

いま話題の理由:AI対応インフラの高密度化(液冷、80kW級RDHx、100kW級ラックへの移行)と供給能力の拡張、そしてNVIDIAとの連携強化が追い風。
VertivはAI用“工場(AI factory)”の電力・冷却を一気通貫で提案できる数少ないプレイヤーです。

3C+リスク分析

Company(自社)

  • 事業内訳:電源(UPS/配電/スイッチギア)、熱マネジメント(空冷+液冷)、ラック/モジュール、監視・KVM、ライフサイクルサービス。300超のサービス拠点は差別化要素。
  • 実行力:2024年Q4の調整後営業利益率21.5%まで改善。2025年は1Qで売上+24%、7月公表の2Qで売上+35%・EPS上振れ、通期有機売上成長24%へ上方修正。受注残85億ドルは先行きの可視性を高めます。
  • 製品拡充:AI/HPC向け新製品(例:80kW級RDHx)、プレハブ型の「OneCore」による大規模AI案件の迅速導入、ラックメーカーの買収(Great Lakes)でシステム一体最適を加速。

Competitor(競合)

  • Schneider Electric:2024年売上381億ユーロ、調整EBITA率18.6%。データセンター×エナジーマネジメントの総合力が高く、グローバルの実装力は最有力級。
  • Eaton:2024年売上249億ドル。電力系統の深いポートフォリオで、スイッチギア・配電・モジュールに強み。Vertivと重なる領域も多い。
  • その他:ABB、デルタ電子、Colo/Hyperscaler向け内製・特注も競合に。価格と納期、液冷の設計・統合力が勝負所。

Customer/Market(市場)

  • 構造変化:AIワークロードでラック密度は40kW超〜100kW級が現実解に。直冷(D2C)やRDHxなど液冷の採用が前提化。結果として、電源・熱を“統合設計”する発注が急増。
  • 需要ドライバー:Hyperscaler/ColoのAI投資、国別の電力制約解消(変電・系統強化)、高速なモジュール納入へのシフト。

リスク

  1. 発注時期のブレ:大手クラウドの設計見直し・在庫調整で短期的な受注鈍化が生じうる(2025年春先に実例)。
  2. 関税・為替・供給網:価格転嫁や調達の柔軟性を要す。
  3. 長期固定価格契約やバックログ未実現のリスク。
  4. 競争激化(液冷規格・内製化の進展)。

SWOT分析

Strengths(強み)

  • 電源×熱×ラック×サービスを一体で提案できる総合力(300拠点・4,000エンジニア)。
  • AI対応製品群(液冷、80kW RDHx、統合モジュールOneCore)、NVIDIA連携で案件定義が早い。
  • 受注残の厚み(85億ドル)とGA(ガバナンス)改善で利益率が上がる局面。

Weaknesses(弱み)

  • Schneider/Eaton比で規模はまだ小さく、調達力・原価で不利な局面も。
  • 高成長ゆえ変動費・CAPEXの先行投資負担、タイトなサプライチェーン

Opportunities(機会)

  • AI用データセンターの高密度化・液冷化の本格普及。
  • モジュール型の大量導入(OneCore)、ラック統合(M&A)で設計〜据付を短期化。

Threats(脅威)

  • Hyperscalerの投資タイミング遅延・設計変更リスク。
  • 関税・為替・地政学で原価と納期が揺さぶられる。

財務分析(PL/BS/CF/株主還元:競合比較を交えて)

PL(損益)

  • Vertiv2024年売上80.1億ドル。Q4で調整後営業利益率21.5%へ。2025年は通期有機売上+24%見通しに上方修正、売上約100億ドルレンジまで拡大。AI波に乗った量×ミックス改善×価格でOPMは20%台へ。
  • Schneider2024年売上3,815億ユーロ、調整EBITA率18.6%。総合電機の厚い基盤が利益を下支え。
  • Eaton2024年売上249億ドル。電力機器の寡占で構造的な高収益。

BS(財政)

Vertivは2024年末ネットレバレッジ約1.0倍と健全。増産投資・M&Aに弾力。

CF(キャッシュフロー)

2024年Q4の調整後フリーCF3.62億ドル。通期でも高いCF創出が続き、2025年ガイダンスではFCF14億ドルへ引き上げ。

株主還元

  • 自社株買い:2023年に最大30億ドルの買戻し枠を設定、2024年1–3月に約6億ドル(約907万株)を実行。24年2月には元大株主から約5.25億ドル(795.5万株)のブロック買いも実施。
  • 2025年には四半期配当0.0375ドルを開始し、還元の“地ならし”が整った段階。

全体的な読み解き

Schneider/Eatonは総合力と規模で“防御的に強い”。
一方VertivはAI高密度ゾーンへの“攻めのエクスポージャー”が極めて大きいOPM20%台へ踏み上げながら、受注残とモジュール戦略で回転を速める絵が見えます。

セクター比較

  • テーマ感度:AIインフラ直結の電力×冷却ど真ん中。部材系より案件統合力がリターンの差を生む。
  • 構造成長:ラック密度上昇と液冷採用が長期トレンド。空調単品から、電源・熱・ラック・監視の“統合パッケージ”へ需要がシフト。
  • 短期変動:2025年前半のように設計見直しや在庫調整で受注が滞る局面もあるが、2Q以降は回復しガイダンス上方修正へ。

投資家にとってのメリットとリスク

メリット

  1. AI高密度化の本流に乗る純度の高いエクスポージャー(液冷・RDHx・モジュール)。
  2. 受注残85億ドルという可視性と、OPM20%台の利益体質への転換。
  3. NVIDIA連携×サービス網による案件定義〜導入〜運用の一気通貫。

リスク

  1. Hyperscalerの投資タイミング次第で四半期ブレが出やすい。
  2. 関税・為替・供給網といった外生ショック。
  3. 液冷規格・価格競争、内製化の進展で粗利圧迫の恐れ。

まとめ

Vertivは“AIデータセンターの制約条件(電力×熱)を解く会社”として、今サイクルの量的・質的成長を最も取り込みやすい存在です。
短期は受注タイミングの揺らぎがある一方、受注残の積み増し(85億ドル)ガイダンス上方修正が示すように、中期シナリオはむしろ明瞭。押し目があれば拾い、モジュール量産・液冷普及の“加速”に賭けるスタンスが合理的と考えます。

AI“工場”の増設は2026年以降も続く見立てで、高密度・液冷・統合設計の潮流はもう戻りません。競合が強い領域でも、スピードと統合力で勝てる土俵にVertivは立っています。
最後に、関税・為替・投資タイミングという外生要因のブレは前提に置きつつ、OPM20%台×厚いバックログという「守り」を持った“攻めの成長株”として評価したい――これが本記事の見解となります。


主要出典:事業・製品・体制(10-K/年次報告)・受注残・地域売上、サービス拠点情報。/ 業績・ガイダンス:2024年Q4リリース、2025年Q1/Q2リリース。/ 市場動向・技術:ラック密度・液冷・RDHx・NVIDIA連携。/ 競合比較:Schneider FY2024・Eaton 2024。/ 株主還元:自社株買い・配当開始。

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