転職面接で聞かれた“アーキテクチャを語ってください”への回答例と準備法

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IT/社内SEの転職面接で近年増えている「アーキテクチャを語ってください」「この状況ならどう設計しますか?」という深掘り質問に、論理的かつ実務感のある回答をするための実践的ガイドをまとめます。筆者(社内SEとしての開発・PL経験・アーキテクト構想参画)の準備ノウハウも交えて解説します。
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なぜ今、面接で“アーキテクト思考”が問われるのか

クラウドの標準化・ローコードの普及により、「作れる」だけでは差別化が難しい時代になりました。業務要件と非機能要件を同時に捉え、コスト・スピード・ガバナンス・セキュリティの最適点を設計できる人材が、社内SE・コンサル・SaaS各社で強く求められています。このため面接では、実装個別論よりも、トレードオフを説明し意思決定できるかが評価軸になります。 本記事では、典型質問に対する答えの骨子具体回答例1週間でできる準備法の順に整理します。

面接での典型質問3例と「答えの型」

前提として、どの質問にも通底する評価ポイントは以下の5つです。
  • 文脈化:ビジネス目標と制約(予算・期限・既存資産)を冒頭で明確化する。
  • 分解:機能要件/非機能要件(可用性・拡張性・性能・セキュリティ・運用性)を分離。
  • 選択と理由:選んだ構成と代替案、採否の理由(費用対効果・リスク・工期)。
  • 検証計画:PoC、性能試験、リリース戦略(Blue/Green, Canary)。
  • 運用と進化:監視・SLO・変更容易性・スケール戦略・技術負債の扱い。

Q1. 「◯◯な状況でアーキテクチャをどう設計しますか?」

例シナリオ:“顧客向けポータルを6か月で立ち上げ。既存基幹はオンプレ/PostgreSQL。初年度5万MAU、ピークは月末集中。社内セキュリティ基準は厳格。将来モバイルアプリ展開予定。” 答えの骨子(PACEフレーム:Purpose→Assumptions→Choices→Evaluation)
  • Purpose(目的):KPI(MAU/SLAs)と制約(6か月・既存接続・セキュリティ)を明示。
  • Assumptions(仮定):ピークトラフィック、データ一貫性要求、変更頻度、チームスキル。
  • Choices(設計選択):クラウド/IaaS or PaaS、DB形態、API層、認証方式、キャッシュ、CI/CD、監視。
  • Evaluation(評価):コスト、レイテンシ、可用性(目標SLO 99.9%など)、運用負荷、拡張容易性。
簡潔回答例: 「目的は“6か月内の安全稼働と将来のモバイル拡張”。仮定として初年度5万MAU・月末ピーク3倍・強整合は会計系のみ。選択は、フロント:SPA+CDNAPI:マイクロサービスは段階的導入(初期はモジュラー単一リポでBFF/Backend分割)、DB:取引は既存PostgreSQLにフェデレーション認証:IdP連携のOIDCキャッシュ:Cloud CDN+アプリキャッシュ。CI/CDはPRベースで自動テスト&カナリア。評価として、SLO 99.9%・p95 300ms、初期コストはPaaS中心で抑制、将来はイベント駆動でスケールアウト。」

Q2. 「最近注目の技術をどう取り入れますか?」

答えの骨子(TLA:Trend→Leverage→Accountability)
  • Trend:生成AI、イベント駆動、Zero Trust、サーバレスなど、業務に関係する“潮目”を指名。
  • Leverage:既存ロードマップにどう噛ませるか(小規模PoC→限定導入→本番化)。
  • Accountability:リスク(コスト予測困難、ベンダーロック、セキュリティ)とガードレール(SLA/予算/データ分類)。
簡潔回答例: 「生成AIは“検索支援とオペ自動化”で段階導入します。まずドキュメント検索をRAGでPoC(匿名化・アクセス制御を前提)、CSチームへ限定提供→効果測定(平均応答時間/一次解決率)→本番化。コストは上限付きのレート制御、モデルはベンダー冗長化。Zero TrustはIdP強化、端末姿勢・ネットワーク分離を順に適用します。」

Q3. 「失敗したアーキテクチャをどう改善しましたか?」

答えの骨子(CAR:Context→Action→Result+学び)
  • Context:失敗の背景(例:過度なマイクロサービス化、認証の複雑化、テスト不足)。
  • Action:打ち手(モジュール統合、SLO再設定、可観測性の導入、負荷試験、リリース戦略変更)。
  • Result:再発防止と定量効果(MTTR短縮、デプロイ頻度増、コスト削減)。
  • Learning:適用可能な教訓(“段階的分割”“機能より運用の持続可能性”)。
簡潔回答例: 「初期にマイクロサービスを拙速に分割し運用負荷が増大。可観測性が薄く障害特定に時間を要しました。そこで境界づけられたコンテキストを再設計し、3ドメインをモジュール統合。SLOを“99.9%/p95 300ms”に再定義し、SLO違反時のエラー予算会議を導入。結果、MTTRを60→15分に短縮、デプロイ頻度は週1→日1へ改善。教訓は“分割は恩恵が費用を上回る時だけ”。」

例:「自分はこう答えた/こう準備した」

背景:社内SEとして既存システムの開発・保守を担当、100人月〜規模の案件でPL。新規システム構築のアーキテクト構想にも参画。 面接での回答戦略:
  • 最初の1分で文脈を固定:「目的・制約・成功指標」を冒頭に置く(例:「6か月で社外公開・既存DB連携・SLO99.9%を守る前提で…」)。
  • 図を言語化:実物の図がなくても「クライアント/API/データ層/監視/CI/CD」の箱と矢印を言葉で再現。
  • 代替案を必ず提示:選ばなかった案(例:フルサーバレス、完全分散トランザクション)も利点・懸念を短く比較。
実際のエピソード(要約):
  • 既存システム刷新:当初はサービス細分化を想定したが、更新頻度とチーム体制から“モジュラー単一アーキ”を選択。理由は「6か月での安全稼働」「監視運用の単純化」。将来はイベント駆動で段階的に分割するロードマップを提示。
  • セキュリティ審査との両立:IdP連携のOIDC+APIMでゼロトラストの入口を形成。データ分類に応じて暗号化・監査ログ・権限境界を設計。
  • 品質と速度の両立:CIで静的解析・コンテナスキャン・E2Eを段階導入。Blue/Greenでリリースリスクを最小化。

回答の「共通テンプレ」:そのまま使える話法

以下のテンプレートを下敷きに、どの質問にも応用できます。
【目的・制約】ビジネスKPI/期限/既存資産/セキュリティ前提
【非機能】可用性SLO/性能p95/RTO・RPO/運用容易性/コスト上限
【設計案】フロント/API構成/データ管理/認証認可/キャッシュ
【代替案】A案/ B案の比較(利点・欠点・撤退条件)
【検証計画】PoC→負荷試験→段階リリース(Blue/Green, Canary)
【運用】監視指標/アラート設計/変更管理/技術負債の返済計画
【結論】採用理由(ビジネス・リスク・コストの整合)

資料に差が出る「非機能チェックリスト」

観点 指標例 設計上のポイント
可用性 SLO 99.9%/月、MTTR 冗長化、ヘルスチェック、フェイルオーバー
性能 p95 300ms、同時接続数 CDN、キャッシュ、N+1防止、容量設計
耐障害 RTO 15分、RPO 5分 スナップショット、マルチAZ/リージョン
セキュリティ SAST/DAST数、脆弱性SLA OIDC、最小権限、暗号化、監査ログ
運用性 デプロイ頻度/失敗率 CI/CD、IaC、Blue/Green、可観測性
コスト 月額上限、単位経済性 リザーブド/スポット、スケーリング閾値

準備法:1週間で“語れる人”になるロードマップ

Day1-2|技術体系の棚卸し(マップ化)

  • 業務軸×技術軸の2Dマップ:顧客・契約・請求・認証などの業務と、フロント/API/DB/認証/監視/CI/CDの技術をマトリクスで可視化。
  • 意思決定ログの抽出:過去案件での「採用/不採用」の判断理由(コスト、工期、スキル、リスク)。

Day3-4|面接用スライド素案(5〜7枚)

  • Slide1:自己紹介(役割・規模・責務)
  • Slide2:代表案件の目的・制約・KPI
  • Slide3:高レベル構成図(箱と矢印でOK)
  • Slide4:代替案比較(表形式でトレードオフ)
  • Slide5:非機能とSLO/運用
  • Slide6:リリース戦略と検証計画
  • Slide7:学びと再現性(他社でも使える原則)

Day5-6|過去問反復&口頭リハーサル

  • 過去問カード:「この制約で設計は?」「最近の技術は?」「失敗と改善?」の3枚を、PACE/TLA/CARで即答練習。
  • 時間制約練習:60秒・3分・7分の3レンジで話す訓練(要点→深掘り→Q&Aの順)。
  • 録音チェック:冗長語削減、主語と結論の先出し。

Day7|模擬面接→微修正

  • クリティカル質問:「もし予算が半減したら?」「3か月短縮なら?」「セキュリティ基準が上がったら?」に即応。
  • ポートフォリオ整備:機密に配慮したダミー図面を1つ用意(実案件の数字は伏せる)。

回答を強くするミニ資料(コピー用)

代替案比較のひな形(表)
利点 懸念 撤退条件
A:PaaS中心 スピード・運用軽量 ベンダーロック コストSLA超過/機能不足
B:K8s/IaC 可搬性・柔軟性 初期複雑性・運用負荷 チームスキル不足/期限超過
C:サーバレス 弾力スケール・従量最適 ワークロード適合性 コールドスタート/制限超過
非機能→設計対応の対応表(抜粋)
  • 可用性→マルチAZ、ヘルスチェック、自動復旧
  • 性能→CDN、キャッシュ階層化、DBインデックス、キュー
  • セキュリティ→OIDC、最小権限、鍵管理、WAF
  • 運用性→IaC、CI/CD、可観測性(ログ/メトリクス/トレース)
  • コスト→リソースタグ、コストアラート、Reserved/Autoscaling

よくある落とし穴と回避策

  • “図は綺麗だが意思決定の理由がない”:代替案と撤退条件を必ず添える。
  • “非機能が空欄”:SLO/SLIを先に置き、設計はそれに従属させる。
  • “流行語の羅列”:PoC→限定導入→効果測定→本番化の導線を説明。
  • “運用を軽視”:監視・アラート・オンコール体制まで言及する。

まとめ:来週の面接までにできる3つのアクション

  1. テンプレを埋めた1ページ資料を作る:目的/非機能/設計/代替案/検証/運用/結論をA4一枚に。
  2. 60秒・3分・7分の口頭模試:スマホ録音→冗長語を削除し、主語と結論を先頭に。
  3. 失敗事例のCAR整理:1件を深掘りし、学びの再現性(原則)を明文化。
面接官は「流行技術の暗唱」ではなく、制約下での最適化と説明責任を見ています。自分の経験を“文脈→理由→結果→再現性”で語れれば、採用側にとって任せられるアーキテクト像として映ります。

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