オプションの価格は、株価・時間・金利・ボラティリティなどさまざまな要素で変動します。
それを理論的に説明するのがブラック=ショールズ方程式(Black–Scholes Model)です。
本記事では、数学を極力使わずに「なぜBSモデルが生まれたのか」「どんな前提で成り立っているのか」「IVが重視される理由」「実務での限界と補正」を、金融工学初心者でも理解できるように解説します。
1. ブラック=ショールズ(BS)モデルとは
① BSモデルの目的:オプションの“適正価格”を求める
オプションは価格変動の保険商品です。したがって、価格が正確でなければ市場は成り立ちません。
しかしオプションの価値は複雑で、次のような変数が影響します。
- 現在の株価
- 権利行使価格
- 満期までの時間
- 金利
- ボラティリティ(変動率)
この複雑な商品を「数学的に合理的な方法で価格づけしよう」としたのがBSモデルです。
つまりBSモデルは、
「オプションが今いくらであるべきか?」を決める理論的な物差し
です。
② BSモデルが成り立つための主な仮定
ブラック=ショールズ方程式は世界的に有名ですが、以下のような前提条件のうえに成り立っています。
- 株価は連続的に動く(ジャンプしない)
- 株価は“幾何ブラウン運動”という確率過程に従う
- 取引コストがない
- 市場は常に売買可能で流動性がある
- 金利は一定
- オプションはヨーロピアン型(満期日にしか行使できない)
現実の市場は完全にはこの通りではありませんが、これらの仮定によって数学的に美しく価格が計算できるというメリットがあります。
2. ボラティリティの概念
① ボラティリティとは?(最重要概念)
ボラティリティ(Volatility)は、株価の「揺れやすさ」を示す指標です。
BSモデルでは、このボラティリティがオプション価格の決定要因の中で最も重要です。
- 株価が大きく動きやすい → オプションの価値は大きい
- 株価がほとんど動かない → オプションの価値は小さい
なぜなら、オプションは「値動きから利益を得る商品」だからです。
② ヒストリカル・ボラティリティ(過去の変動率)
過去の株価データから計算される“実績のボラティリティ”です。
- 過去の株価の標準偏差から計算
- 実績データベースの指標
- 将来の値動きを完全に反映しているわけではない
③ インプライド・ボラティリティ(IV)とは?
インプライド・ボラティリティ(Implied Volatility)は、
「市場価格に織り込まれた将来の変動率」です。
BSモデルに“逆算”して求められます。
- オプション価格 → BSモデルに代入する → IVが算出される
つまり、市場参加者が「今後どれくらい株価が動くか」をどの程度予測しているかを表す指標がIVです。
④ 「IVが高い=オプションが割高」と言われる理由
オプション価格はIVに強く連動します。
- IVが上昇 → オプション価格が上昇(=割高になりやすい)
- IVが下降 → オプション価格が低下(=割安になりやすい)
理由はシンプルで、
「値動きが大きいほど儲かる可能性が高い」
からです。
そのため、市場の恐怖が高まると(例:VIX急騰)、IVも上昇してオプション価格が一気に跳ね上がります。
3. BSモデルの限界
① BSモデルは市場を完璧には表せない
BSモデルは美しい数学的構造を持っていますが、現実の市場はその仮定どおりにはいきません。
- 株価はジャンプする(急落・急騰が起きる)
- 取引コストがある
- ボラティリティは一定ではない(実際には変動する)
- 流動性が薄い銘柄も存在する
これにより、BSモデルの価格と実際の市場価格にズレが生じることがあります。
② 実務でどう補正されるのか?
実際の金融市場では、BSモデルをそのまま使うのではなく、さまざまな補正が行われます。
- ボラティリティスマイル(Smile)・スキュー(Skew)
→ IVが行使価格ごとに異なることを反映 - ジャンプ拡散モデル(Mertonモデル)
→ 株価がジャンプする現象を補正 - 局所ボラティリティモデル
→ ボラティリティが時間と価格で変動することを反映 - 確率ボラティリティモデル(Hestonモデル)
→ ボラティリティそのものが確率的に動くと仮定
これらのモデルは、BSモデルの限界を補いながら実務に適用するための“進化版”です。
まとめ
ブラック=ショールズ方程式は、オプション価格の基礎となる理論であり、金融工学における最も重要な成果のひとつです。
- BSモデルは“オプションの適正価格”を計算するために使われる
- 最も重要な要素は「ボラティリティ」
- IVは市場が予測する将来の変動率で、価格を強く左右する
- BSモデルには限界があり、実務では補正モデルが広く利用される
次の記事では、金利モデルや債券価格の決まり方など、金融工学のもう一つの重要テーマを扱います。
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