債券や金利は、株式市場と違って動きが読みづらく、複雑な数学モデルが使われる領域です。
本記事では、債券価格の決まり方から、金利モデル(Vasicek、CIR)まで、金融工学の視点で体系的に解説します。
また、社債やスワップ市場など「実務でどう使われているのか」まで理解できる構成です。
1. 債券価格の決まり方
① 債券の基本:クーポンと割引現在価値
債券は、将来のキャッシュフロー(利息=クーポン + 元本返済)を現在価値に割り引くことで価格が決まります。
債券価格は以下のように表されます:
債券価格=将来のクーポンの現在価値+満期時の元本の現在価値
金利が上昇すれば現在価値が下がり、債券価格は下落します。
逆に金利が下がれば、債券価格は上昇します。
- 金利 ↑ → 債券価格 ↓
- 金利 ↓ → 債券価格 ↑
この「逆相関」が債券の最重要ポイントです。
② デュレーションとは?(債券の値動きの敏感度)
デュレーションとは、債券価格が金利変動にどれだけ反応するかを示す指標です。
株式の「ベータ」に相当する概念と考えると直感的です。
- デュレーションが長い → 金利変動に敏感(長期国債など)
- デュレーションが短い → 金利変動に鈍い(短期債券など)
例:
- デュレーション 10年の債券は、金利が1%上昇すると価格が約10%下落
- デュレーション 2年なら、下落幅は2%程度
金利リスクを測る物差しがデュレーションです。
③ 利回り曲線(イールドカーブ)とは?
イールドカーブは、債券の「期間」と「利回り」をプロットした曲線です。
通常は以下のような形をとります。
- 右肩上がり:長期ほど利回りが高い(通常時)
- フラット:景気転換期
- 逆イールド:長期利回りが短期より低い → 不況の前兆ことが多い
投資家はイールドカーブを用いて、景気見通し、金利政策、債券の割高/割安を判断します。
2. 金利モデル(入門)
① なぜ金利は“確率過程”でモデル化されるのか?
株価と同様に、金利も将来が不確実であり、ランダムに動く性質があります。
よって金融工学では「金利そのものを確率過程としてモデル化」します。
理由:
- 将来の金利を正確に予測することは不可能
- 債券価格やスワップ価格は金利に大きく左右される
- 変動する金利を前提にしないと正しく価格付けできない
金利の確率モデルを使うことで、債券やデリバティブの適正価格を計算できるようになります。
② Vasicek モデル(最も基本的な金利モデル)
Vasicekモデルは、金利が「平均へ回帰する動きをする」と仮定します。
- 金利は上下しながら徐々に“長期平均”へ戻っていく
- 確率的に変動する(ランダムウォーク+平均回帰)
金利の暴走(無限に上昇・下降)が起きにくいというメリットがあります。
③ CIRモデル(より実務的な金利モデル)
CIRモデルは、Vasicekモデルを改良した金利モデルです。
- 金利がマイナスになりにくい性質を持つ
- 金利が低いときは変動が小さくなる(現実をよく説明)
- 金利が高いときは変動が大きくなる
CIRモデルは、国債・スワップの価格付けでよく使われる実務的なモデルです。
3. 実務ではどう使われているか?
① 社債の価格決定
企業が発行する社債の価格は、国債利回り+信用スプレッドで決まります。
- 国債利回り → 金利モデルで計算
- 信用スプレッド → 企業の信用リスクを加味
金利モデルは「自然金利(基礎部分)」を作る役割を担い、そこに企業固有のリスクを上乗せして価格が決まります。
② スワップ市場(世界最大の金利市場)
金利スワップとは、固定金利と変動金利を交換する契約です。
スワップレートは将来の金利の期待値で構成されるため、金利モデルが価格決定に不可欠です。
- 固定金利側の価値 ← 割引現在価値
- 変動金利側の価値 ← 金利モデルで予測された将来の金利
金利スワップは企業の借入リスク管理に広く利用されています。
③ 企業の資金調達(長期の債務管理)
- 借入金利リスクの管理
→ 金利スワップ・金利オプションを利用 - 社債発行の適正タイミング判断
→ イールドカーブの状況を分析 - 設備投資・M&Aの資金計画
→ 長期金利の予測が必須
企業は金利モデルを用いて「どのタイミングで借りるか・返すか・固定化するか」を判断しています。
まとめ
金利と債券は、金融工学の中でも実務色の強い分野です。
本記事では以下のポイントを押さえました。
- 債券価格は将来キャッシュフローの現在価値で決まる
- デュレーションは金利感応度を測る重要指標
- イールドカーブは景気・金利政策を反映する
- 金利は予測困難なため“確率過程”でモデル化される
- Vasicek/CIRモデルは金利の変動を再現する代表的モデル
- 社債価格、スワップ、企業の資金調達など実務で幅広く活用されている
次の記事では、確率過程とモンテカルロシミュレーションについて解説し、金融工学における数値計算の実例を紹介します。
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