AIブームの重心はNVIDIAなど半導体に見えます。しかし、実際にキャッシュが積み上がるのは「電力→送電→配電→ラック→冷却→運用」までの全経路です。
本記事は、データセンターの供給網(サプライチェーン)を地図(マップ)として描き直し、どこに利益の“溜まり場”があるのかを、個別株とETFの両面から、いま投資家が使える実務に落とし込みます。
供給網マップ:発電→送電→配電→ラック・冷却→運用
① 発電・調達(Utilities / 分散電源)
系統電源(公益)+ピーク/非常用の分散電源。電力価格と接続規制がボトルネック。
- 公益:NEE, DUK など(系統・長期PPA)
- 分散電源:CAT(発電機), GNRC(バックアップ/マイクログリッド)
② 送電・建設(EPC/建設・保守)
高圧系統の新設・増強・再エネ接続・データセンター引込。受注残(バックログ)が成長の可視化指標。
- PWR(Quanta Services):送電網EPCの雄。再エネ・データセンター接続で案件拡大。
- 資機材(鉄塔/電線/基礎)供給網の逼迫にも留意。
③ 変電・配電(スイッチギア/UPS/遮断器)
データセンターの“心臓”。高電力密度化で機器の高度化・保守サービスの比率が上昇。
- ETN(Eaton):配電盤・遮断器・スイッチギア・UPS。データセンター向け比率が拡大。
- 欧州勢:ABB、Schneiderも重要プレーヤー。
④ ラック・電源・冷却(高密度対応)
GPU時代のボトルネック。電力密度/発熱の“最後の1m”を制する企業が強い。
- VRT(Vertiv):ラック/電源(整流器)/熱マネジメント。モジュール型・液冷対応を拡充。
- SMCI(サーバ筐体)など隣接領域と補完関係。
⑤ 運用・最適化(ソフト×保守×SLA)
稼働率・電力効率(PUE)・保守SLAでマージンが決まる。マルチベンダー運用の統合が鍵。
- 運用最適化:DCIM/AIオペレーション(各社ソフトと統合)。
- 保守:MRO契約の継続収益化が利益の“溜まり場”。
※図は概念整理。固有の投資判断は自己責任で、各社の最新開示を必ず確認してください。
3C+リスク分析(自社/競合/市場+規制・資源)
自社(代表例)
- PWR:送電EPCのスケールと安全品質。受注残=将来売上の可視性。
- ETN:ミッションクリティカル機器+UPSで“止めない価値”。サービス比率の上昇がOPMを押し上げ。
- VRT:高密度化の本命。液冷/モジュール化で構成の“標準パーツ”化を狙う。
競合
- 送電:MYR、MasTecなど工事系の競合。
- 配電:ABB/Schneider/Siemensなど重電大手。
- 冷却:老舗空調・液冷スタートアップとの競争的協調。
市場
- AI需要による電力・設置面積・水リソースの制約が顕在化。サイト選定は系統容量と許認可がボトルネック。
- 欧米は系統強化、アジアは新設×迅速性が鍵。地域分散とPPAが普及。
リスク
- 規制:系統接続・環境アセス・水資源の競合。
- 資機材・人手逼迫:EPC原価上昇、工期ディレイ。
- 金利・電力価格:投資採算/契約再交渉のリスク。
- 投資サイクル反動:AI景気後退時のキャンセル/延期。
SWOT分析(代表3社:PWR/ETN/VRT)
PWR(Quanta Services)
- S:送電EPCの規模・安全性・記録的受注残。
- W:人員確保と下請け管理、天候要因の影響。
- O:再エネ接続/データセンター引込の増勢。
- T:許認可の遅延、資機材インフレ。
ETN(Eaton)
- S:スイッチギア/UPSのプロダクト+保守が高収益。
- W:重電大手との競争、供給リードタイム。
- O:高密度化・可用性要件で更新需要。
- T:大口顧客の設備投資サイクル振れ。
VRT(Vertiv)
- S:ラック・電源・熱管理の一体展開、液冷モジュール対応。
- W:新規投資の一巡後の需給調整。
- O:OCP準拠モジュールや高密度対応の標準化波及。
- T:技術転換スピード、価格競争。
財務の見方:実務チェックリスト
- 受注残(Backlog):成長の“残量”。PWRは過去最高圏の更新が続くか。
- セグメント別OPM:ETNのミッションクリティカル×サービス比率の推移。
- 回転・CF:大型案件特有の前受・出来高計上の癖を把握。
- 還元方針:ネットデット/EBITDAと自社株買い余地。
ETF設計:コア×サテライトで“集中”と“ボラ”を制御
コア
- VOO(S&P500時価総額):市場の大宗。コスト最低水準。
サテライト
- RSP(S&P500等重):メガテック集中の緩和。ファクター分散を付与。
- USMV/QUAL/MTUM:低ボラ×質×モメを局面別に配合。
タイプ別プリセット(例)
- 低ボラ志向:VOO 60%+USMV 25%+RSP 15%
- 攻守バランス:VOO 60%+RSP 20%+QUAL/MTUM 20%
- 個別ミックス:VOO 40%+RSP 20%+(PWR/ETN/VRT/LIN)20%+USMV 20%
※比率は一例。NISA枠・課税口座・為替コスト・配当課税を総合考慮。
投資家にとってのメリットとリスク
- メリット:半導体だけに依らない収益源の取り込み/RSPで集中緩和/USMV/QUAL/MTUMでボラ・質・トレンド最適化。
- リスク:電力・規制・資機材制約による工期/原価リスク/AI投資の循環性/金利と電力価格の感応度。
まとめ:半導体の“外側”に利益がある
AIデータセンター相場の胆は、「系統と“最後の1m”」にあります。送電EPC(PWR)、配電機器(ETN)、高密度対応のラック/熱管理(VRT)など、止めない・冷やす・つなぐ領域は、長期契約や保守SLAでキャッシュが積み上がる構造です。コアはVOO、集中緩和にRSP、地合いコントロールにUSMV/QUAL/MTUM。個別株は供給網の“地図”から逆算して、どこで利潤が生まれるかを問い直しましょう。


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