【金融工学入門】確率過程とモンテカルロシミュレーションをわかりやすく解説|ブラウン運動・GBM・VaRの基礎

金融工学

金融工学の中心にあるのが「確率で動く資産価格」という考え方です。
株価・金利・為替など、未来は完全に予測できないため、確率過程を使ったモデル化が必要となります。

本記事では、ブラウン運動・幾何ブラウン運動(GBM)、モンテカルロシミュレーション、さらに実務でよく利用されるリスク指標であるVaR(バリューアットリスク)まで体系的に解説します。

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1. ブラウン運動(確率過程の基礎)

① ランダムウォークとは?

ランダムウォークとは、価格が「毎秒ランダムに上下する」ような動きを指します。

  • 明日の株価は今日の株価+ランダムな変動
  • 過去の動きは未来の動きに影響しない

金融市場が「過去の値動きで未来を予測しきれない」理由の1つです。

② ブラウン運動(Brownian Motion)とは?

ブラウン運動とは、ランダムウォークを連続時間に拡張した確率過程です。

  • 平均0・分散が時間に比例するランダムな動き
  • 非常に短い時間ごとに不規則に変動する
  • 金融工学の多くのモデルの基礎

ブラック=ショールズモデルなど、多くの金融モデルは「株価はブラウン運動に従う」と仮定しています。

③ GBM(幾何ブラウン運動:Geometric Brownian Motion)

単純なブラウン運動は株価がマイナスになる可能性があります。
そこで金融工学では「株価は絶対にマイナスにならない」という性質を持つ幾何ブラウン運動(GBM)を使います。

  • 株価は常に0以上
  • 価格変動は対数正規分布に従う
  • ボラティリティが価格の変化率を決める

このGBMが現代金融工学の標準的な資産モデルです。

2. モンテカルロシミュレーション

① モンテカルロとは?

「モンテカルロ法」は、確率的に未来の値動きを何百〜何万回もシミュレーションし、
その平均や分布からリスクと価格を評価する手法です。

金融工学では必須の計算手法です。

② 手順とアルゴリズム

モンテカルロの流れは非常にシンプルです。

  1. 現在の株価 S₀ を設定する
  2. GBM(幾何ブラウン運動)に従って1日後の価格を計算
  3. これを 1万回など大量に繰り返す
  4. 価格の分布を作り、平均・分散・損失確率を求める

この「未来のパターンを大量に作る」ことで、リスクを精緻に測れるようになります。

③ 参考:Pythonで超簡単に実装(10行)

以下は、株価の1年後のシミュレーション例です。

import numpy as np

S0 = 100      # 初期株価
mu = 0.05     # 期待リターン
sigma = 0.2   # ボラティリティ
T = 1         # 1年
N = 10000     # 試行回数

# GBMの公式を使って1年後をシミュレーション
S_T = S0 * np.exp((mu - 0.5*sigma**2)*T + sigma*np.sqrt(T)*np.random.randn(N))

print("平均価格:", np.mean(S_T))
print("5%下側(VaR的な値):", np.percentile(S_T, 5))

Pythonなら数行で実装でき、株価・オプション価格・リスク評価に応用できます。

3. バリューアットリスク(VaR)

① VaRとは?

VaR(Value at Risk)は、
一定の確率で1日(または一定期間)にどれくらい損失する可能性があるかを示す指標です。

例:

「1日95%VaR=100万円」
→ 95%の確率で、損失は100万円以内に収まる
→ 残り5%の確率で、100万円以上損する可能性がある

② 1日VaRの計算例

日次の変動率(リターン)の標準偏差が 2% の資産があったとします。

95%信頼区間(1.65σ)なら、

VaR = 現在価格 × 1日標準偏差 × 1.65

株価が10,000円なら、

VaR = 10,000 × 0.02 × 1.65 = 330円

「95%の確率で1日の損失は330円以内」という意味です。

③ 注意点(VaRの限界と“質的なリスク”)

VaRにはいくつかの注意点があります。

  • 大きな暴落(テールリスク)は測れない
  • 過去データを使うため未来を正確に予測できない
  • 異常時には分布が崩れる(相関が上がる)

リーマンショックやコロナショックのような極端イベントは、VaRが想定する範囲外になりやすいのです。

そのため、実務では次も併用されます:

  • ストレステスト(過去最悪の状況を当てはめる)
  • シナリオ分析(特定イベントの影響を試す)
  • ES(期待ショートフォール:VaRの外側の損失の平均)

まとめ

本章では、金融工学に欠かせない確率過程・モンテカルロ法・VaRを扱いました。

  • ブラウン運動は確率的な価格変動の基礎
  • 幾何ブラウン運動(GBM)は株価モデルの標準形
  • モンテカルロ法はリスク分析に広く使われる
  • VaRは「一定確率での最大損失」を示す重要指標
  • ただし極端なリスク(テールリスク)は別途管理が必要

次の記事では、リスク管理やAI・Pythonへの応用など、実務的な金融工学の使い方を扱っていきます。

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