しかし、高配当の源泉はオプション・プレミアムという“見えない金利”。
つまり、相場が大きく上がるほど上昇の一部を手放し、相場が荒れるほど分配原資が厚くなる設計です。この記事では、数字だけでなく仕組み・構造まで掘り下げ、「なぜ今JEPQを語るのか」「投資家は何を期待し、何を諦めるのか」を明確にします。
分析対象の概要
JEPQは、ナスダック100に連なる大型グロース株の現物ポートフォリオに、株価連動仕組債(ELN)経由でコールオプションを売ることでプレミアム収入を獲得し、毎月分配を狙うアクティブETFです。運用はJ.P.モルガンのデータサイエンスに基づく銘柄選定が土台になっています。
| 項目 | JEPQ(最新) |
|---|---|
| 正式名称/ティッカー | JPMorgan Nasdaq Equity Premium Income ETF / JEPQ |
| 運用開始 | 2022年5月3日 |
| 経費率 | 0.35% |
| 純資産総額(Value of investments) | $30.90B(2025/9/30) |
| 利回り | 30日SEC 9.45%/12カ月ローリング 11.27%(2025/9/30) |
| 分配頻度 | 毎月(月ごとに金額は変動) |
| 主な戦略 | 大型グロース株のロング+OTMコールの売り(ELNを通じ実装) |
| ボラティリティ設計 | β0.70/標準偏差14.23(設定来)で指数より低ボラ |
| 出典:JPMorgan JEPQ Fact Sheet(2025/9/30)ほか。数値は将来を保証しません。 | |
| 上位10銘柄(比率) | セクター配分(%) |
|---|---|
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| 出典:同上ファクトシート(2025/9/30) | |
3C+リスク分析(自社/競合/市場+リスク)
自社(Fund:事業内訳とパフォーマンスの構造)
- 収益源:主成分はオプション・プレミアム。ボラティリティが高いほど分配原資は厚くなりやすい一方、低ボラ化では分配は細る傾向。
- 上昇捕捉と引き換え:強気相場ではコール売りが上値を押さえ、指数に劣後しやすい。実績でも2023年はJEPQ +36.3%に対しNASDAQ100は+55.1%。
- 低ボラ設計:β0.70/標準偏差14.23(設定来)。荒い相場での体感リスクを抑える意図。
競合(QYLD/NUSI/QQQとの比較)
| ETF | 戦略 | 経費率 | AUM目安 | 分配頻度 | 上昇捕捉 |
|---|---|---|---|---|---|
| JEPQ | 現物ロング+ELN経由のコール売り(アクティブ) | 0.35% | $30.9B(2025/9/30) | 毎月 | 中(QQQ<JEPQ<QYLD) |
| QYLD | ナスダック100に対し原則100%カバードコール(パッシブ) | 0.60% | $8.1B(2025/10/20時点ページ) | 毎月 | 低(上値をほぼ放棄) |
| NUSI | コール売り+プット買いのコラ―戦略 | 0.68% | 約$0.33B(概況) | 毎月 | 低~中(下落耐性と引き換え) |
| QQQ | ナスダック100の純粋指数連動 | 0.20% | 約$390B(サイト表記のMarket Value) | 四半期 | 高(上昇取り切り) |
| 出典:各社公式資料・サイト(詳細は記事末にまとめ)。AUMや頻度は公表時点の目安。 | |||||
市場(顧客ニーズ)
- 「成長を捨てずに毎月のキャッシュフローも欲しい」層が主顧客。退職世代・配当再投資派・サイドFIRE層など。
- AI関連ニュースでボラが上がりやすい局面では、プレミアム環境=追い風になりやすい。
主なリスク
- ボラ低下リスク:相場が落ち着くほどプレミアムは縮小=分配低下。
- 上昇相場の取り逃し:強い上げ相場ではQQQに劣後しやすい(過去実績あり)。
- 集中リスク:メガテック偏重ゆえ個別ニュースの影響が波及しやすい。
- ELN固有リスク:流動性・信用・評価の複雑性(仕組債)。
- 分配は変動:毎月出るが金額は一定ではない(直近例:2025/10/1に$0.4461)。
SWOT分析
| 強み(S) | 弱み(W) | 機会(O) | 脅威(T) |
|---|---|---|---|
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財務分析(ETF流のPL/BS/CS)
BS視点(規模・配分)
AUM(Value of investments)は$30.90B。セクターは情報技術が46.2%で最も厚く、コミュサービス・一般消費が続きます。
PL視点(収益力の源泉)
分配の主原資はオプション・プレミアム。ボラティリティ上昇=収益力の追い風、低下=向かい風という相場依存構造を持ちます。
CS視点(キャッシュフロー=分配)
分配は毎月だが金額は変動。直近例として2025年10月の一株当たり分配は$0.4461です。
パフォーマンス(設計どおりか)
| 年 | JEPQ | NASDAQ100 | 見立て |
|---|---|---|---|
| 2023 | +36.28% | +55.13% | 強気相場で劣後(想定どおり) |
| 2024 | +24.82% | +25.88% | ほぼ近似(持ち合い~緩やか上昇) |
| 出典:JEPQ Fact Sheet(2025/9/30)カレンダイヤーリターン。 | |||
セクター比較(ポジショニングの違い)
- JEPQ:情報技術比率46%のグロース寄り。“低ボラ×インカム”の折衷。
- QQQ:純指数連動。テックが最大で、上昇捕捉を最優先(分配は低め、経費0.20%)。
- QYLD:買い×売り(カバードコール)をフル実施。分配は厚いが、上昇捕捉は最も弱い。
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- 毎月のキャッシュフローを設計しやすい(直近12M 11.27%)。
- 指数より低ボラで“荒れ相場の体感”を緩和。
- 大手運用(J.P.モルガン)の執行力とプロセス。
リスク
- 強気相場の機会損失(QQQに劣後しやすい)。
- ボラ低下=分配低下の構造リスク。
- ELNに起因する流動性・信用・評価の複雑性。
ケーススタディ(現実的な使い方)
| 前提 | 試算 | 示唆 |
|---|---|---|
| 投資額1,000万円、直近12M利回り11.27%(税・為替考慮なし) | 年112.7万円 ≒ 月9.4万円の分配規模 | 生活補助のキャッシュフロー源として有効。一方、熱狂相場では資産成長の取り逃しが生じうる。 |
| 注:将来の分配を保証するものではありません。数値は便宜上の単純換算。 | ||
まとめ:JEPQは「攻守折衷のインカム型サテライト」
結論:JEPQは、コア(全米・全世界・QQQなど)に対して10〜30%程度のサテライトとして組み込むと、上昇捕捉と月次キャッシュフローのバランスを取りやすいと考えます。ボラが報酬源であることを腹落ちさせ、「分配は変動」「強気での劣後」を受け入れられる投資家にフィットします。
なお、より分散的にインカムを取りたいなら兄弟戦略のJEPI(S&P500ベース)、純粋に成長を取り切るならQQQ/QQQMが合理的です。相場の温度感に応じて再投資/取り崩しを使い分ける運用が現実解でしょう。
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