さらに10月1日に1→2の株式分割、上限140万株・50億円の自社株買い枠を設定と、個人投資家にとって注目の材料が続きます。本記事では、地域特化×高収益という“通信の小巨人”といえるを、沖縄セルラー電話を構造から深掘りします。
分析対象の概要
沖縄セルラーはKDDI(au)グループの連結子会社で、沖縄県内でau/UQ mobile/povoのモバイルと、FTTH「auひかり ちゅら」などの固定系、電力・決済など生活密着サービスを展開します。
主要株主はKDDIが約53%を保有し、グループ連携を強固にしています。
市場区分は東証スタンダード/業種:情報・通信業となります。
事業の骨子
- モバイル:au/UQ/povoのマルチブランドで県内シェアを取りにいく(1Qから「モバイル総合収入」のKPIに変更)。
- 固定系(OTNet):光回線・法人NWを担う子会社OTNetがB2B/B2Gを下支え。
- ライフデザイン:auでんき等でARPUと家計内シェア拡大。
スケール感(直近期の実績・見通し)
- 2026/3期1Q:営業収益206.1億円(+4.0%)、営業利益46.4億円(+6.2%)、自己資本比率83.9%。
- 通期計画:営業収益850億円、親会社株主純利益125.5億円(いずれも前年比微増)。
- 配当:24期連続増配を継続、2026/3期予想128円(分割後換算)。
3C+リスク分析(Company/Competitor/Customer+Risk)
Company:自社の構造と強み
1Qはモバイル総合収入+2.5%、契約数69.3万回線まで積み上げ。端末販売とauでんきの伸長も寄与しました。投資は設備投資116億円(1Q)で、5GやFTTHの増強を継続。KDDI本体と販売・ネットワーク・調達を共有しながら、地域適合で収益性を高める設計です。
Competitor:競合状況
競合はNTTドコモ/ソフトバンク。外部レポートでは沖縄のモバイル市場で同社がトップシェア(約5割)との指摘もあります。
大手同士の全国施策に加え、県内では光・電力・決済などの“生活インフラ同士の結び付け”が競争軸。KDDIグループのポイント経済圏×店舗網は、離島輸送や現地施工まで含むサプライチェーン面の優位につながります。
Customer/Market:需要環境
沖縄県人口は2022年をピークに減少へ。2024年推計は146.6万人で3年連続減。
とはいえ社会増(転入超過)はプラスで、観光需要の回復も相まって通信需要は底堅い構図です。住宅地の拡大と光回線の切替需要、キャッシュレス浸透がARPU維持に効いています。
Risk:主要リスク
- 規制変動:電気通信事業法ガイドライン改正で新規割引規制が緩和。料金競争の波及や販売施策の変化が生じうる。
- 人口動態:長期的な自然減少は回線純増の鈍化リスク。
- 自然災害・インフラ:台風常襲に伴う設備保全コスト。
- グループ依存:KDDIの方針や全国施策の影響を相対的に受けやすい(親会社が約53%保有)。
SWOT分析
Strengths(強み)
- KDDIグループの調達力・技術力・ブランド(au/UQ/povo)
- 地域特化運営+OTNetによる施工・保守の即応力
- 高い自己資本比率(83.9%)と継続的な増配方針
Weaknesses(弱み)
- 地域集中(沖縄)ゆえの市場規模の上限
- 親会社の政策・料金戦略への追随度合いが高い
Opportunities(機会)
- 観光・行政・防災・教育等のB2B/B2Gソリューション深耕(OTNet)
- 電力・決済・コンテンツ等のライフデザイン横展開
Threats(脅威)
- 料金競争・端末販促の環境変化
- 台風・塩害など自然災害リスク
- 長期の人口自然減に伴う市場縮小圧力
財務分析(PL/BS/CF/株主還元:競合比較の視点込み)
PL(損益計算)
- 2026/3期1Q:営業収益206.1億円、営業利益46.4億円で増収増益。モバイル総合収入+2.5%、端末販売/auでんき伸長が寄与。通期は営業収益850億円、純利益125.5億円計画。
- 前期実績(参考):営業収益779億円、純利益121億円、ROE12.5%と説明会資料で言及。
BS(貸借対照)
総資産1,146億円/自己資本比率83.9%(1Q末)。有利子負債に依存しない堅牢財務。
CF(キャッシュフロー)
継続的な設備投資(1Qで116億円)を賄いつつ、自社株買い・消却で資本効率を引き上げ。発行済株式数は前期末48.31→1Q末47.09百万株へと減少。
株主還元(配当+自社株)
- 配当:24期連続増配、2026/3期年間128円予想(分割後換算)。支払は年2回(12月/6月)。
- 自社株買い:上限140万株・50億円(取得期間:2025/5/22–2026/4/15)。9月時点の取得進捗も開示。2025/5/15には前回取得分をすべて消却済み。
セクター比較(国内通信3社+沖縄セルラーのざっくり位置づけ)
- 沖縄セルラー(9436):PER19.6倍/PBR2.55倍/配当利回り2.45%/時価総額約2,463億円
- KDDI(9433):PER約12.8倍/PBR約1.87倍/配当利回り約3.2%/時価総額約10.5兆円
- ソフトバンク(9434):PER約22.1倍/配当利回り約3.7%/時価総額約11.3兆円
→ バリュエーションはKDDI<沖縄セルラー<ソフトバンク(PER)という並び。利回り面ではKDDI/SBに見劣りする一方、地域独占的な収益構造×高ROEを市場が一定評価していると読めます。
投資家にとってのメリットとリスク
中長期で“コア寄りサテライト”として評価できます。理由は3点です。
- 安定性:KDDI連結傘下・地域密着運営・自己資本比率80%超という“守り”。
- 成長性:観光復調・B2B/B2G(OTNet)・ライフデザイン横展開の“攻め”。
- 還元力:連続増配+自社株買い+分割で需給・流動性の改善も期待。
一方で、買いタイミングは“押し目待ち”が無難。同業比でPERはややプレミアム、配当利回りはKDDI/SBに劣後。人口自然減・規制・災害の3点セットは常に頭に置きたいところです。
メリット
- 地域トップシェアと高いROE/資本効率の改善余地(買戻し・消却)
- グループ連携(端末・料金・ポイント・電力・決済)で家計内シェア拡大
- 分割で投資単位が下がり需給改善が見込める
リスク
- 人口自然減による純増の鈍化
- 料金・販売施策の規制環境変化
- 台風常襲エリアの設備保全コスト上振れ
- グループ方針の変更影響(親会社依存)
まとめ
(1)業績は堅調に増収増益で推移、(2)分割+自社株買いで需給・流動性が好転、(3)地域特化で高いキャッシュ創出力を維持、の3点が投資妙味です。
人口動態=長期成長率の天井感という“宿命”はあるものの、KDDI連結の規模メリットと、OTNetを核にした地場密着の実装力は簡単には崩れません。
配当狙いの安定資産としては十分に魅力。利回り重視ならKDDI、地域モノのプレミアムを取るなら沖縄セルラー、そのような住み分けで押し目を丹念に拾う戦略がひとつのアプローチとして考えられます。
(本記事は、2025年9月17日時点の公表情報に基づき作成しています。)
参考情報(主要ソース)
- 2026/3期1Q決算短信(7/25開示)・配当・分割・通期計画、契約数・KPIなど
- 大株主(KDDI約53%)
- 自社株買い枠(上限140万株・50億円)・分割公表
- 直近期実績(増配継続、24期連続)
- 市場区分・時価総額・バリュエーション
- 沖縄県の人口減少トレンド(最新推計)
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