ディフェンシブ×増配の“複利エンジン”として、なぜ今AWRを語るのか——背景と構造まで掘り下げます。
分析対象の概要(セクター・規模・ビジネスモデル)
- セクター:規制水道(Golden State Water, GSWC)+小規模規制電力(Bear Valley Electric)+米軍基地の上下水運営(ASUS)
- 規模感:水道約26.5万コネクション、電力約2.5万コネクション。
- 時価総額:おおむね約30億ドル規模(2025/9/5時点の相場水準参考)。
- 軍基地(ASUS):50年契約の12基地+15年契約の1基地を運営。2024年以降、新規2拠点の運転開始など進捗。
- ビジネスモデル:①規制事業は「投資(レートベース)×料金認可」で安定成長、②ASUSは固定価格契約+追加工事でフィーを積み上げる二本柱。
3C+リスク分析(自社/競合/市場/リスク)
① 自社(Company)
2025年Q2のEPSは$0.87(前年$0.85)。新料金の実装で水道・電力は増益、契約受託は工事タイミングで減速しました。
また、四半期配当の8.3%増額により、増配トラックレコードは71年へ。
料金制度面は、従来の完全デカップリング(WRAM)から“モントレー式”M-WRAMへ移行。需要・水源ミックスの変動が収益に与える影響は、従来よりも相対的に大きくなり得ます。
一方で、2025年料金は1月1日付で有効となる設計が示され、資本投資回収の見通しは維持されています。
財務の“土台”として、親会社AWRのS&P格付けはA(安定的)、中核のGSWCはA+(安定的)。低い資金調達コストがインフラ投資の継続を支えます。
② 競合(Competitor)
- American Water(AWK):全米最大の水道事業者。規模の経済とM&Aパイプラインが強み。
- Essential Utilities(WTRG):水道+ガスの複合でインカム厚め。
- California Water Service(CWT)/SJW:カリフォルニア軸の規制事業で、AWRと事業特性が近い。
③ 市場(Customer/Regulation)
規制水道は「CAPEX→レートベース→料金認可」の梯子で長期成長が設計されます。加えて2024年のEPAによるPFAS最終規則(飲料水MCL)で、全米の水処理CAPEXは構造的に積み上がる見込み(PFOA/PFOSは4ppt、ほか数種は10ppt)。AWRにも調査・除去対応の需要が波及します。
④ リスク
- M-WRAM移行:需要・気象や水源シフトの影響が収益に残りやすく、短期ボラティリティが相対的に上がる可能性。
- 規制裁定:許容ROE・回収年限の裁量はCPUC判断に依存。
- 金利感応度:公益株の宿命。長期金利の高止まりはバリュエーションの逆風。
- 環境規制:PFAS対応は先行コスト→後回収になりやすい。
- ASUSの工事タイミング:四半期ベースの利益ぶれに注意。
SWOT分析
領域 | ポイント |
---|---|
S(強み) |
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W(弱み) |
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O(機会) |
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T(脅威) |
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財務分析(PL/BS/CF/株主還元:競合比較)
収益性(PL)
2025年Q2は売上・EPSとも前年増。水道・電力が新料金反映で押し上げ、契約受託は工事進捗により減速。四半期の凸凹はあるものの、年次では規制事業のベース成長が支えます。
財政状態(BS)と格付け
AWR(親会社)A、GSWCA+(ともにS&P、見通し安定)。調達コストの低位安定が、レートベース拡大の呼び水に。
キャッシュフロー(CF)
規制事業は料金回収の仕組みにより営業CFの安定性が高い一方、継続的な大型CAPEXでフリーCFは薄くなりやすい構造。ASUSは四半期で工事認識の波が立つ点に留意。
株主還元と同業比較
銘柄 | 特徴 | 配当トピック |
---|---|---|
AWR | 規制水道+電力+ASUSの長期契約で分散 | 71年連続増配・2025年8.3%増配 |
AWK | 全米最大。規模の経済と買収ドライブ | 2025年も増配継続・ガイダンス堅調 |
WTRG | 水道+ガスの複合でインカム厚め | 毎年増配の方針を継続 |
CWT/SJW | CA軸の規制水道。AWRと事業特性が近い | 連続増配を継続(利回りは2〜3%台目安) |
セクター比較(「水道」というアセットの位相)
水道事業は景気感応度が低く、投資→レートベース→料金認可の連鎖で長期的な伸びしろが設計されています。2024年のEPA最終規則でPFASのMCLが確定したことは、当面コスト上昇の負担になる一方、規制資産の積み上がり=将来の回収原資が拡大するという側面もあります。
AWRはASUSの超長期契約が収益サイクルの非相関を生み、全体のボラティリティを抑制しやすい点がユニークです。
投資家にとってのメリットとリスク
- メリット:
- 71年連続増配×配当成長CAGRの高さ——“債券的安定”と“株式的成長”の両取り
- 2025年は新料金反映が収益を底上げ
- ASUSの50年級の長期契約群が景気と非連動なキャッシュフローを供給
- S&P A/A+の信用力で資金コスト優位
- リスク:
- M-WRAMで短期の収益ぶれが拡大しやすい
- 金利・規制裁定・自然災害(干ばつ・山火事)の外生リスク
- PFAS対応は先行コスト→回収タイムラグの可能性
まとめ
AWRは「ディフェンシブな配当コンパウンド」を狙う長期投資家向けのコア候補です。
71年連続増配の信頼性、新料金の追い風、そしてASUSの長期契約という分散ドライバー——この3点が今の投資テーマを支えます。一方、M-WRAM移行による短期ボラ、金利・規制裁定、PFASコストの先行など、短期的なノイズは織り込む必要があります。
個人的見解としては、極端な割安局面を待ちつつ“押し目で枚数を重ねる”戦略が理にかなうと考えます。足元の相場水準(例:$74台)は長期の配当成長を買う価格帯として妥当性があると判断します。
※本稿は2025年9月7日(JST)時点の公開一次情報(IR/規制資料/報道)に基づいて執筆しています。
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