とりわけ「バッチ式ALD×単枚トリートメント」という二枚看板で、3D NANDの層数拡大、HBMを中心とした先端DRAM、そしてGAA(Gate-All-Around)へ移行する先端ロジックの量産課題に答えています。
本記事では、同社の競争優位がどこから生まれ、どのようなリスクで毀損し得るのかを、構造と因果のレベルまで掘り下げて整理します。
なぜこのタイミングで分析を行う意味があるのか
直近決算でアプリ別(NAND/DRAM/ロジック)や地域別(中国/非中国)のミックスが明確になり、通期計画は下期偏重を前提に据え置かれました。
また、業界では2025年に向けてWFE(前工程装置)市場が過去最高圏で推移する見方が優勢です。
こうした「量と方向」が見えやすい局面は、同社の勝ち筋(何を伸ばすか)と弱点(何に揺さぶられるか)を言語化するベストタイミングです。
- 短期:NAND回復と先端DRAM(HBM)投資を取り込み、H2(下期)で台数・構成が改善
- 中期:GAA/CFETを見据えた成膜・改質ニーズの増大で、ALDの構造的需要が続く
- 留意:対中規制や関税動向で出荷タイミングが変動し得る(地域ミックスのボラ)
分析対象の概要
コクサイエレは、装置(成膜・熱処理)とサービス(保守・パーツ・レトロフィット)の二本柱。上場後は生産能力増強と顧客接点強化を加速し、インストールベースの拡大=サービス売上の粘着性を高めています。
歴史的にも成膜分野に尖り、買収提案などを経て現在は独立性を保ちつつ、世界の大手メモリ/ロジック顧客と深い関係を築いています。
- プロダクト:バッチ式ALD/LP-CVD、単枚(プラズマ)トリートメント、アニール等
- 収益構造:装置売上に加え、サービスが安定キャッシュ源として粗利を下支え
- 顧客層:大手メモリ、先端ロジック/ファウンドリ、中国ローカルも含む広範な裾野
事業内容と業界動向
多層化・微細化が進む過程で、配線溝や三次元構造の隅々まで均一に膜を成長させるALDの価値は年々高まっています。
NANDは層数増に伴い被覆性・段差被覆の要件が厳格化、HBM対応DRAMは熱バジェットや欠陥管理の難度が上がり、ロジックはGAA移行でゲート周りの均一性が品質と歩留まりを左右します。
これらはすべて、成膜とトリートメントの“質”がボトルネック化しやすい領域です。
- NAND:3D積層の継続拡大→バッチALDのスループット優位が効く
- DRAM:HBM立ち上げで層間欠陥と均一性の管理が厳格化
- ロジック:GAAでチャネル周辺の面内均一性・コンフォーマル性要求が上昇
- 地域:投資額は中国が大きい一方、規制影響によるタイミングのブレが大きい
SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)
強み
- ニッチトップ:バッチALDで世界上位の存在感。歩留まり×スループットの両立
- サービスの粘り:インストールベース拡大で不況期でも粗利が崩れにくい
- 顧客密着:量産現場でのプロセス・改造提案力(POR獲得→量産導入を加速)
弱み
- ポートフォリオの狭さ:露光・計測・エッチング等を持つ総合勢に比べ守備範囲が限定
- 地域ボラ:中国比率の振れが四半期の収益変動を増幅
- 能力増強フェーズ:新拠点・人員強化で固定費の先行負担が発生
機会
- HBM×GAA×3D NAND:構造変化の中心に「良い成膜・改質」がある
- レトロフィット:改造・部品置き換えで既存装置の性能を底上げ、粗利率が高い
- 地域ミックス改善:非中国の先端投資回復で収益性の底上げ余地
脅威
- 対中規制/関税:出荷対象・時期の変動リスク
- 中国ローカル装置の台頭:バッチ拡散/CVDなど隣接領域で競争激化
- 為替・サイクル:メモリ価格や投資サイクルの反動局面
競合他社との主要な財務指標比較(参考)
※おおまかな目安(直近公表値ベース)。詳細は各社IR・決算資料をご確認ください。
企業 | ティッカー | 主力領域 | PER(参考) | 営業利益率(参考) | ひとこと |
---|---|---|---|---|---|
KOKUSAI ELECTRIC | 6525(東証) | バッチALD/トリートメント | 高10倍台〜低20倍 | 20%台前半 | ニッチで厚い堀+サービスの粘着性 |
東京エレクトロン | 8035(東証) | 前工程総合 | 高10倍台〜20倍 | 20%後半 | 広いポートフォリオと規模の経済 |
SCREEN | 7735(東証) | 洗浄・コータデベロッパ等 | 10倍前後 | 20%前後 | 高効率・高品質で存在感 |
Applied Materials | AMAT(NASDAQ) | 前工程総合 | 20倍前後 | 30%前後 | 規模と総合力による厚い利益体質 |
Lam Research | LRCX(NASDAQ) | エッチング・成膜 | 20倍台 | 30%超 | 先端DRAM/NAND向けで強い |
セクター比較
半導体製造装置セクターは、AI需要の本格化に伴いHBM(先端DRAM)と3D NANDが牽引役。
米大手は30%前後の営業利益率が目安、日本大手は20%台前半がボリュームゾーンです。
コクサイエレは中位〜上位の収益性を確保しつつ、サービス売上の比率上昇でディフェンシブ性を強化しています。
- 投資ドライバー:HBM増産、GAA移行、NAND層数拡大、SiCパワー
- 評価軸:営業利益率、受注残、サービス比率、地域ミックス
- 注目KPI:ブック・トゥ・ビル(受注/売上)、粗利率、POR獲得スピード
今後の戦略と展望の分析
同社が掲げる中計のコアは、「WFE成長率を上回る売上成長」と「調整後OPMの段階的引き上げ」です。
製品面ではミニバッチALDや単枚トリートメントの深掘り、用途面ではNAND/DRAM/先端ロジックのバランス最適化、事業面ではサービスの継続伸長を三位一体で進めます。
砺波の新工場による生産性向上と米国デモセンターの稼働は、供給能力×POR獲得の同時強化という意味で戦略的です。
- ミックス戦略:非中国の先端投資回復で地域ミックス改善→粗利率の底上げ
- 製品ロードマップ:GAA/将来CFETまで見据えた成膜・改質プロセスの高度化
- サービス戦略:レトロフィット/改造提案の標準化で粗利確保と顧客粘着度を強化
- 投資計画:拠点強化や設備投資は先行負担も、量産期に営業レバレッジを発揮
FY26/3は下期偏重で会社計画線上、FY27/3以降はNAND回復と先端DRAMの両輪がかみ合い、OPM30%台への接近余地。
ただし、対中規制や関税再燃、成熟ロジックの鈍さが下振れシナリオの要因となり得ます。
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- 構造的追い風:HBM・GAA・3D NANDという「成膜が効く」テーマが継続
- 高収益モデル:サービス比率の上昇でキャッシュ創出のボラを低減
- 顧客密着:量産現場の課題に即した提案力でPOR獲得と立ち上げ速度を向上
リスク
- 地政学・規制:対中規制や関税で出荷時期/対象が変動
- 競争:総合装置大手や中国ローカルの追い上げ(価格×技術の両面)
- 為替・サイクル:メモリ価格の反動、円高局面での採算圧迫
まとめ
コクサイエレは、「装置の尖り(バッチALD・トリートメント)×サービスの粘り」で中位〜上位の収益性を維持する優良ニッチです。
現下の波であるNAND回復+HBM拡張にプロダクトが合致し、地域ミックスが改善すればマージン階段をもう一段上げられる公算が高いと見ます。
一方で、政策リスクや中国依存のボラ、ポートフォリオの狭さは常に点検が必要です。
- 毎決算でアプリ別・地域別ミックスとサービス比率を確認
- 砺波新工場の稼働度と受注・B/Bの積み上がりを追跡
- セクターではPER・OPM・受注残をAMAT/LRCX/TEL/SCREENと相対評価
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。数値・見解は執筆時点の公表情報をもとにした目安であり、将来の成果を保証するものではありません。
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