【2025版:米国株分析】スリーエム(MMM)について徹底分析

金融

3Mは「ポスト・イット」「スコッチ」で知られる一方、真の稼ぎ頭は接着・フィルム・研磨・防護具といった“見えない素材”です。

工場、自動車、電子機器の中で静かに効く「貼る・守る・整える」を世界規模で提供してきました。2024年に医療機器部門をソルヴェンタム(Solventum)として分社化し(3Mは19.9%を保有、5年以内に現金化予定)、2025年は本体の再成長に集中。直近2025年Q2は売上+1.4%、調整後営業利益率24.5%、調整後EPS2.16ドル、通期ガイダンスを7.75〜8.00ドルに引き上げるなど、立て直しが数字で確認できました。ここがスタートラインです。

派手な成長物語ではなく、“安定高収益に戻す過程”を見ていく銘柄といえます。

  • 3Mは「暮らしと産業の間」をつなぐ素材企業

  • 2024年に医療を切り出し、2025年は“本体の地力”を磨く年

  • Q2決算で利益率の回復と通期上方修正を確認


なぜこのタイミングで分析を行う意味があるのか

2024年5月、外部出身のビル・ブラウン氏がCEOに就任し、運営モデルの徹底と資本配分の再設計に着手しました。さらに長年の重荷だったPFAS(“永遠の化学物質”)関連は公共水道向けの包括和解が最終承認され、最大10.3Bドルの見積りを13年かけて支払う枠組みが動き始めています。

耳栓訴訟も2023年の最大60億ドルの包括和解後、進捗と支払いが進み、新規の大量提起は沈静化。3Mは“後始末をしながら、再び稼ぐ”フェーズに入りました。

  • 新CEO就任で「外からの目」を入れた再建の1年目

  • PFASは公水道向け和解が走り出し、支払いスケジュールが明確化

  • 耳栓訴訟は包括和解の履行が進み、訴訟件数の潮目が変化
    まとめ:不確実性の“濃霧”が薄れ、業績の積み上げを四半期ごとに検証しやすい局面です。


分析対象の概要

分社後の3Mは三本柱でシンプルになりました。

①セーフティ&インダストリアル(接着・研磨・テープ・防護具)

②トランスポーテーション&エレクトロニクス(車載・電子材料・表示材・フィルム)

③コンシューマ(文具・住設・清掃)

医療は2024/4/1にSolventumとして分離し、3Mは19.9%を保有、5年以内に現金化します。

よって、コングロマリットから“素材×産業の核”へ。構造が見通しやすくなりました。

  • 三事業体制で“本業”へ資源集中

  • 医療分離により、投資家も3M本体の実力を見極めやすい

  • Solventum株のモネタイズ余地が中期の資本配分の選択肢に


事業内容と業界動向

工業・電子材料は世界景気や自動車・スマホのサイクルに敏感。一方、家庭向けはブランドとスイッチングコストで比較的安定します。ESG面ではPFAS製造を2025年末までに終了する方針を公表済みで、規制対応の先行きも整理されつつあります。

Q2の実績は小幅増収ながら利益率の改善が鮮明でした。サイクル感度は残るものの、規制・レガシーの地雷処理が終盤に差しかかり、利益体質の底上げがテーマです。

  • 景気に連動しやすい「工業・電子」、粘り強い「コンシューマ」

  • PFAS製造は2025年末までに完全撤退の計画

  • Q2は売上+1.4%、調整後営業利益率24.5%で回復感


SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)

3Mのコアは材料科学の横展開力。テープや研磨、フィルムの基盤技術を「用途×産業」で広げ、長期の取引関係と価格決定力を確保してきました。レガシー訴訟で資金と経営リソースを削られましたが、分社と和解で本業集中の地合いが整い、利益率の回復も四半期の数字に映り始めています。

強い基盤の上に“雑音”が減るほど実力が見えやすくなる——3Mはそのフェーズに入っているのではないでしょうか。

  • 強み:接着・研磨・フィルム等の基盤技術、広い顧客網、ブランド(Post-it/Scotch)

  • 弱み:訴訟・規制起因のキャッシュ流出、医療分離後の成長物語は再構築中

  • 機会:本業集中で資本効率の改善、EV・半導体・産業安全の高機能化波及

  • 脅威:PFAS規制強化や追加請求、世界景気・為替・関税の外部ショック


競合他社との主要な財務指標比較

同じ“質の高いインダストリアル”としてよく比較されるのがハネウェル(HON)、イリノイ・ツール・ワークス(ITW)、パーカー・ハネフィン(PH)。P/Eは「将来の確度」と「事業の質」を織り込むため、3Mは“回復過程の中位評価”という立ち位置です。

  • MMM:フォワードP/E 約19.9倍、配当は四半期0.73ドルを継続

  • HON:フォワードP/E 約21倍

  • ITW:フォワードP/E 約24〜25倍

  • PH:フォワードP/E 約25倍


セクター比較

工業セクターでは、PH/HONが高収益・高品質で先行、ITWは長年の資本効率で高評価を維持。3Mはレガシー対応で遅れが出た分、いまは「運営の磨き込みで追いつく」戦略です。なおHONは素材分野のスピンオフ計画など再編を進め、同セクター全体でも“より濃い核”に収れんする動きが目立ちます。3Mは“構造改革を終えてからが本番”。同業の実行力と比較される目線が一段と強まります。

  • 先行組:PH/HON(高マージン×強い実行力)、ITW(高ROIC)

  • 3M:不確実性の逓減+利益率底上げで再評価を狙う段階

  • セクター全体:ポートフォリオ純化による「核の強化」がトレンド


今後の戦略と展望の分析

当面の柱は、①価格・製品ミックス改善、②原価・サプライ網の効率化、③事業ポートフォリオの最適化。Q2で調整後営業利益率24.5%を回復させたことは地味ながら大きい前進です。PFAS製造は2025年末までに完全撤退予定で、公共水道向け和解は13年にわたり支払いが続きます。配当は2025年も四半期0.73ドルを継続中。まずは“筋肉をつけ直す”期間です。

  • チェックすべきKPI:

    • 調整後営業利益率が25%前後に定着するか(Q2は24.5%)

    • オーガニック成長率が安定プラスか

    • 訴訟キャッシュアウトが想定レンジ内で推移するか

    • PFAS撤退(2025年末)と和解支払いの粛々とした履行


投資家にとってのメリットとリスク

最大のメリットは“不確実性プレミアムの逓減”です。和解・撤退で見通しが整い、利益率が戻れば、評価のディスカウントは自然に縮みます。一方で、景気鈍化・為替・関税や、PFAS関連の追加規制・請求といった外部要因には目配りが必要。配当は維持されているものの、かつての“連続増配の誇り”よりは「健全なバランス」を優先する設計です。

繰り返しですが、3Mは「急成長株」ではなく「復元力に賭ける株」。焦点は“実行が続くか”です。

  • メリット:不確実性の逓減による再評価余地/利益率回復の継続性/素材とブランドの“横展開力”

  • リスク:追加規制・請求、景気・為替・関税の逆風、配当妙味は“安定維持”段階


まとめ

私は“段階的に強気”と考えています。理由は以下です。

(1)PFAS・耳栓の大枠が固まり、霧が晴れつつあること

(2)Q2で利益率回復が確認でき、通期ガイダンスも上方修正されたこと

(3)同業の優等生に比べ評価が中位で、実行の積み上げでギャップを詰める余地があること

買い方は一括より分散。決算ごとに①調整後営業利益率、②オーガニック成長、③訴訟のキャッシュアウト、④PFAS撤退の進捗を点検し、「戻し切った」と判断できたタイミングで比重を上げる。3Mは、世界の産業を裏側から支える“王道の裏方”。地味でも効く、その復活劇を数字で追いかけるのが正攻法と考えます。

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