生成AI・HPCの拡大で、半導体の競争軸は前工程の微細化だけでなく、後工程の高密度化へ移りました。封止(モールディング)と金型の精度が歩留まりと熱信頼性を決める局面で、TOWAは圧縮モールド(コンプレッション)と超精密金型を武器に存在感を高めています。

2026年3月期1Qは売上の落ち込みで赤字計上となった一方、2Q以降の受注回復レンジとHBM4向けの「超狭ギャップ充填」技術が示され、中期のシナリオはむしろ鮮明になりました。

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なぜこのタイミングで分析を行う意味があるのか

短期は米国関税動向などの不確実性で装置納入がずれ、1Qが赤字に振れました。他方、同社は通期見通し(売上560億円・営業益98億円)を据え置き、受注の回復シナリオHBM4量産対応を明確化。市場が「底打ち→回復」を検証するのが今です。

  • 6月末の受注残は約275億円規模と厚みがある。
  • 地域別では中国の刺激策・内製化で回復、台湾の回帰、韓国は非AIメモリの弱さが残存。
  • 次世代AI(HBM/PLP/SiP)案件の寄与が下期にかけて期待される。

分析対象の概要

TOWAはモールディング装置(CPM/PMCなど)・シンギュレーション装置超精密金型を中核とし、「工法 × 装置 × 金型」の垂直統合で量産歩留まりを設計段階から保証するアプローチが強みです。2025/3期は売上534.7億円・営業利益率16.6%を確保し、2026/3期は売上560億円・営業益98億円を見込んでいます。

  • 代表機種:CPMシリーズ(WLP/PLP対応、液体・粒状樹脂の両対応、離型フィルム使用量を約25%削減)。
  • モールド+金型の同時最適化で、反り/歪み、EMI、熱抵抗の課題に一体で対処。
  • 装置の派生展開(SiP/PLP/2.5D・3D)で技術資産を横展開。

事業内容と業界動向

HBMの多段化・高密度化が進むほど、スタック間の“狭ギャップ”に空隙なく樹脂を充填することが難しくなります。

コンプレッションモールドは樹脂挙動やボイド管理に優れ、従来方式より反り/歪みも抑制しやすい。TOWAはHBM4世代に向けてUltra narrow gap Mold Underfillを打ち出し、品質×生産性の両立を図ります。

  • AIサーバ増産でHBM需要は構造的に強い(2025年〜)。
  • 後工程装置では、ハイブリッドボンディングなど周辺技術の進展がライン構成を変える可能性。
  • パネルレベル化(PLP)やSiP普及で、モールド工程の役割は拡大基調。

SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)

強み

  • 圧縮モールド × 精密金型の垂直統合で高難度パッケージを量産適用。
  • HBM4向け狭ギャップ充填技術を先行投入。

弱み

  • 地域ミックスと四半期ボラティリティに業績が振れやすい。
  • 前工程大手に比べ規模の経済で劣後し、レバレッジの上下が大きい。

機会

  • HBM/PLP/SiPなどAI起点の後工程増産。
  • モールド工程の役割拡大(熱・EMI・反り対策の一体最適)。

脅威

  • ハイブリッドボンディングなどの台頭で工程配列が変化するリスク。
  • 地政学・規制に伴う装置投資スケジュールの遅延。

競合他社との主要な財務指標比較

企業 売上 営業利益率 補足
TOWA 2025/3 534.7億円 16.6% 26/3期計画:売上560億円・営業益98億円
DISCO(切断・研削) 2025/3 3,933億円 42.4% 装置+消耗+サービスで超高収益
BESI(先端実装) 2024通期 €607.5M 32.2% HBM/ロジック向け受注が牽引
ASMPT(実装/AP) 2024通期 HK$13.23B 約4%(粗利40%) 景気循環の影響大

TOWAは「中規模 × 中高収益」のニッチ王者。DISCO/BESIに比べ規模・率では劣るが、HBM世代の“狭ギャップ問題”という構造テーマで差別化できます。

セクター比較

前工程(露光・成膜・計測)は寡占・高単価・サービス収益で高マージンが常態。一方、後工程は顧客の投資サイクル直撃で利益率のブレが大きくなりがちです。TOWAは後工程の要であるモールド工程を握るため、AI/HBMの波に素直に連動する一方、四半期アップダウンの管理が肝要です。

  • 前工程周辺(ディスコ等)は高付加価値モデルで高収益を維持。
  • 後工程はサイクル感応度が高く、ミックス悪化時は利益率が落ちやすい。

今後の戦略と展望の分析

会社は26/3期通期見通しを据え置き。受注は2Q130〜150億円、3Q/4Q150〜170億円レンジの回復を想定し、次世代AI関連の採用増を織り込みます。

技術軸はHBM4向けUltra narrow gap Mold Underfillの量産適用で、CPMシリーズを中心に樹脂・金型・プロセス条件を同時最適化します。インド販売子会社の設立など地理戦略の拡張も進行。

  • KPI:受注残の積み上がりと消化、HBM4向け台数の立ち上がり、地域ミックス改善。
  • 導入未実績先への新規採用決定のニュースフローに注目。
  • 「先に技術を通す→後から台数が乗る」という後工程のセオリーを踏む局面。

投資家にとってのメリットとリスク

メリット

  • AI/HBMの構造追い風+狭ギャップ充填という技術的モア
  • 装置×金型の垂直統合で、歩留まり保証型の提案とスイッチングコストの上昇が期待。
  • 受注回復レンジ・厚い受注残でボトム確認の材料が揃う。

リスク

  • 四半期ボラティリティと地域偏重(通商・規制の影響)。
  • ハイブリッドボンディング主導などの工程アーキ変更でモールド比重が変化。
  • 量産適用の遅延(材料適合・樹脂挙動・反り/歪みなど)。

短期は中立(2Qの受注・売上回復の達成度を最重視)とし、中期は選好(HBM4量産の「通過」確認で台数カーブの切り上がり余地)が安全といえます。

まとめ

TOWAの真価は、量産で難題を解く「工法起点の装置」にあります。

1Q赤字は短期逆風の反映にすぎず、受注レンジの回復シナリオとHBM4向け狭ギャップ充填の量産化が中期の成長ドライバー。投資家は、①四半期受注レンジの達成、②HBM4量産採用のニュース、③地域ミックス改善の3点をトラッキングしつつ、技術の通過点に資本を配分できるかが問われます。

出典・参考資料

  • TOWA「2026年3月期 第1四半期決算説明資料」公式PDF

※本記事は情報提供を目的としたもので、投資勧誘・助言に該当しません。投資判断はご自身の責任でお願いします。