米国の物価指標(8月PPI)が前月比▲0.1%と予想外の鈍化を示し、9月16〜17日のFOMCに向けて利下げ観測が一段と強まっています。
本記事では最新四半期(2025年4–6月期、以下Q2)と7月の資本政策を軸に、構造・理由まで掘り下げて投資妙味を検証します。
(出典:Reuters、FRB)
分析対象の概要
- セクター:米メガバンク(ダイバーシファイド)
- 総資産:$3.44兆(期末)/預金:$2.01兆(Q2)
- 売上(Revenue, net of interest expense):$26.6B
- 純利益:$7.1B(EPS $0.89)
- 効率比率:64.58%/ROTCE:13.4%
- ビジネスモデル:Consumer Banking、GWIM(Merrill等)、Global Banking、Global Marketsの4本柱で安定×市況を両立
事業別のQ2収益は、Consumer $10.813B、GWIM $5.937B、Global Banking $5.690B、Global Markets $5.980B。
IB手数料(自己主導除く)は$1.4B、セールス&トレーディングは$5.3Bでした。
(出典:BAC Q2’25 Earnings Release)
3C+リスク分析(自社・競合・市場+固有リスク)
Company:自社の稼ぐ仕組み
- 低コスト個人預金:Q2の消費者預金の支払金利は58bpと良好。
金利低下局面でもNIMの“底”を形成しやすい土台です。
(出典:Yahoo Finance要旨) - 分散収益:消費者(安定)×マーケット/IB(市況)のハイブリッド。
Q2のトレーディングはFICC主導で増収、IBは一時的に伸び悩みつつも案件パイプは堅調。
(出典:BAC Q2’25) - 資本・効率:効率比率64.58%、ROTCE13.4%。
過度なレバレッジに頼らず、TBVPSも着実に増加。
(出典:同上)
Competitor:主要競合の位置づけ
- JPMorgan(JPM):2025年通期NIIガイダンスを$95.5Bへ上方修正。規模の強みで金利・市況の両面を取り込む構図。
(出典:Reuters) - Wells Fargo(WFC):2025年NII見通しを概ね横ばいへ下方修正。
(出典:Reuters) - Citigroup(C):Q2純利益$4.0B。グローバルの再編を進めつつ、IB/Markets・ウェルスを伸ばす。
(出典:Citi PR)
Customer/Market:マクロ環境
8月のPPIが▲0.1%と弱含み、FOMC(9/16–17)での利下げ観測が優勢に。
クレジットは足元安定、家計の健全性は大手行の総論として堅調です。
(出典:Reuters、FRB)
Risk:固有リスク
SWOT分析
Strengths(強み)
- 低コスト個人預金(58bp)と幅広い収益源により、金利・市況の両局面で粘り強い。
- 効率比率64.58%、ROTCE13.4%と地力は良好。TBVPSも増勢。
Weaknesses(弱み)
- 利下げ局面ではNIIが構造的に減速しやすい。
- 富裕層・法人預金のコストは個人より高く、預金ベータの下がりにくさが逆風。
Opportunities(機会)
- 市場ボラの高止まりがマーケット収益を支え、IBの回復が上乗せ要因。
- 株主還元の強化(後述)が需給の下支えに。
Threats(脅威)
- CREオフィスの「満期壁」再評価リスクは残存。もっとも大手は管理可能な範囲との見方が主流。
- 規制・資本要件の見直しで、将来の買戻し能力に不確実性。
財務分析(PL/BS/CS/株主還元:競合比較)
PL(損益計算書)
Q2の売上$26.6B、純利益$7.1B、EPS$0.89。
事業別ではConsumerが堅調、MarketsはSales & Trading $5.3Bと底堅く、IB手数料(自己主導除く)は$1.4B。
(出典:BAC Q2’25)
BS(貸借対照表)
期末総資産$3.44兆、預金$2.01兆。平均総資産も拡大基調で、資本はCET111.5%(標準方式)。
大型の資金源を背景に、貸出・有価証券・流動性のバランスは安定的。
(出典:同上)
CS(キャッシュフロー的視点)
銀行では会計上CFよりも、預金の質(ベータ)と有価証券ポートの含み、および資本バッファーが本質的。
TBVPSの増加と効率比率の管理改善は、逆風下でも資本リターンを維持する基盤となります。
株主還元(配当・自社株買い)
- 配当:四半期$0.28(+8%)へ増配(2025年Q3から)。
- 自社株買い:$40Bの大規模プログラムを新規承認。
発表(7/23)直後は需給期待で株価が素直に反応。還元の“アクセル”が投資妙味を高めました。
(出典:BAC Press Release)
競合比較の要点
セクター比較(構造・稼ぐ力の相対評価)
JPMは規模×資本市場で天井が高い一方、マクロ感応度は相対的に大きい。WFCは国内リテール濃度が高くNIIの金利依存が強い。
その中でBACは低コスト個人預金の厚みと、Markets/IBの回復オプションのバランスが良い。
利下げ初期にNII鈍化が出ても、市場系収益と還元で相殺しやすい形です。
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- 低コスト預金×分散収益で業績の底が見えやすい。
- 増配+$40B買戻しの需給効果(資本効率の明確なコミット)。
- トレーディング/IBの循環回復が上振れ余地。PPI鈍化と利下げ観測は追い風。
リスク
- 預金ベータ低下が想定以下の場合、利下げ局面でNIIの下押し。
- CREオフィスの再評価・満期再設定リスク(ただし大手は管理可能との見方が優勢)。
- 規制・資本要件の変化に伴う還元余地の変動。
まとめ:私の立場・戦略
BACは「良好なディフェンス(低コスト預金・効率)に、攻めの株主還元と市場系回復が付いた銘柄」といえます。
ROTCE13.4%・効率比率64.58%は派手さこそ無いものの、個人預金58bpという強固な土台が利下げ初期のNII下押しを受け止めます。
さらに$0.28配当+$40B買戻しは資本配賦の意思表示として強力で、7/23発表という「具体的なイベント」が需給を実際に押し上げました。
戦略としては、FOMC前後は「NII鈍化懸念 vs. 利下げ期待」の綱引きでボラが出やすいことから、9月会合を跨ぐ短期の揺れを段階的な押し目拾いで取りに行き、中期はIB/Marketsの回復+TBVPSの積み上がり+還元の複利を狙うのが吉です。
チェックポイントは預金ベータの推移とCREオフィスの解消進捗、そして規制の行方です。
参考資料・出典
- Bank of America:Q2 2025 Earnings Release / Supplemental(売上・純利益・効率比率・ROTCE・事業別収益・資本指標・クレジット動向)
- Bank of America:$0.28配当・$40B自社株買いのプレスリリース(2025/7/23)
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