更新日:2025-09-11
通期の調整後EPSガイダンスを「$11.20〜$11.50」へ引き下げ、株価の上値は重い展開です。
それでも同社は北米に広がる直営店網と調色即応体制という“現場密着オペレーション”で、プロ顧客の粘着度を高め続けてきました。
今は需要の弱さと成長投資・再編費用が利益を圧迫する移行期。本稿では最新の開示と競合比較を踏まえ、構造的な強みと足元のリスクを深掘りします。
分析対象の概要
- セクター/ティッカー:素材(塗料・コーティング)/SHW
- 時価総額:約900億ドル(2025年9月時点)
- 2024年売上高:231億ドル(過去最高を更新)
- 主な顧客:プロ塗装業者、建築・産業向けB2B、ホームセンター(DIY)
事業セグメントとビジネスモデルの核
- Paint Stores Group(PSG):北米の直営店網でプロへ直販。調色・即納・近距離配送で工期短縮を支援。
- Consumer Brands Group(CBG):ホームセンター等にNB/PL供給。DIY需要の影響を受けやすい。
- Performance Coatings Group(PCG):工業・パッケージング等のB2B用途を展開。
3C+リスク分析(自社・競合・市場+リスク)
① Company(自社)—収益エンジンの実像
2025年Q2は売上$63.1億(前年比+0.7%)、調整後EPS$3.38(同▲8.6%)。
PSGは価格寄与で増収、一方でCBG(DIY)とPCG(産業)は伸び悩みました。
また、オハイオで進める新HQ・R&D拠点や再編費用などの先行コストが販管費を押し上げ、利益を圧迫しています。
- PSG:価格主導・防食/海洋系が堅調。数量は微減〜横ばい。
- CBG:北米DIYの弱含みと為替で減収・採算悪化。
- PCG:地域ミックスは改善途上。用途によって好不調が分かれる構図。
② Competitor(競合)—分散型のPPG、ニッチ強者のRPM、欧州のAkzo
- PPG:2025年Q2売上$42億(▲1%)、調整後EPS$2.22。事業再編と固定費圧縮を継続。
- RPM:FY2025売上$73.7億で過去最高更新。特殊コーティング・建材分野の分散が効く。
- AkzoNobel:2024年売上€106.7億。欧州中心にコスト改革とポートフォリオ見直しを継続。
③ Customer/Market(市場)—需要ドライバーの実際
住宅再塗装はプロ需要が底堅く、PSGの直販体制が威力を発揮。
ただし2025年上期〜Q2は新築・非住宅・メンテの動きが鈍く、総量の回復には時間を要します。
同社は需要の弱さ長期化を見据え、再編・コスト最適化を前倒ししています。
④ リスク(構造と短期の両面)
- 短期:DIY低迷、非住宅・新築の鈍さ、HQ/R&D移転の先行コスト、為替。
- 中期:原材料(樹脂・溶剤)の再インフレ、M&A統合コスト(後述のSuvinil)と競合の価格攻勢。
- 規制:VOC規制、環境・安全関連の法規対応と訴訟可能性。
ソース
- IR:SHW 2025年Q2/
PPG 2025年Q2/
RPM FY2025 - HQ/R&Dプロジェクト:Building Our Future
SWOT分析
Strengths(強み)
- 北米最大級の直営店網×調色即納でプロに密着。
- 価格決定力と強いブランド資産。
- 連続増配46年(2025年時点)に裏打ちされた資本政策。
Weaknesses(弱み)
- 北米住宅サイクルへの感応度。
- DIY依存のCBGは景気変動・為替の影響が大きい。
- HQ/R&D移転や再編費用で短期EPSがぶれやすい。
Opportunities(機会)
- ブラジルのSuvinil事業買収で高成長市場に本格参入。
- パッケージングや防食・海洋など高付加価値用途への拡大。
- 規制強化に伴う高機能塗料へのシフト。
Threats(脅威)
- PPG・Akzo等の再編進展に伴う価格競争。
- 原材料価格・為替の反転。
- 景気後退局面での数量減と固定費負担。
財務分析(PL/BS/CF/株主還元)
直近四半期のハイライト(2025年Q2)
項目 | SHW(2025年Q2) | コメント |
---|---|---|
売上高 | $6.31B(+0.7%) | PSGの価格寄与で増収。CBG/PCGが重し。 |
調整後EPS | $3.38(▲8.6%) | 需要の弱さ、再編・投資の先行で圧迫。 |
通期ガイダンス | Adj. EPS $11.20–$11.50 | 従来$11.65–$12.05から下方修正。 |
キャッシュ創出力とレバレッジ
- 2024年 営業CF $31.5億(売上の約13.7%)。フリーCFは20億ドル超で投資・還元の原資は厚い。
- 2025年上期も営業CF$10.5億、配当と自社株買いを継続。
株主還元
2025年に四半期配当を$0.79へ増配(前年比+10.5%)。46年連続増配は同社の象徴。
自社株買いも並行し、総還元の一貫性が長期リターンを下支えします。
セクター比較(評価と位置づけ)
SHWは直販×ブランド×オペ力でROICプレミアムを享受し、株式市場では高めの倍率で評価されがちです。
足元のEPSモメンタムが鈍る局面では、プレミアムが逆風になる点に留意が必要です。
銘柄 | 事業特性 | P/E(TTM目安) | コメント |
---|---|---|---|
SHW | 北米直販が核、価格主導力が高い | 約35倍 | プレミアム評価。需要鈍化時は割高感が意識されやすい。 |
PPG | 用途・地域分散 | 約25倍 | 再編・固定費圧縮で利益率改善途上。 |
RPM | 特殊コーティング・建材に強み | 約25倍 | ボラティリティ低減、過去最高売上更新。 |
参考:世界株式平均P/E ≒ 21〜22倍(2025-09時点) |
ソース
- バリュエーション:各種市場データ(Fullratio、Yahoo! Finance 等)
- 世界平均P/E:World P/E
投資家にとってのメリットとリスク
メリット
- PSGの“即時調色×近距離配送”がプロの工期短縮に直結し、価格転嫁耐性を高める。
- 連続増配と自社株買いの一貫性(資本配分の規律)。
- ブラジルSuvinil買収で地理的分散と高成長市場の取り込みが進む。
リスク
- DIY低迷・非住宅/新築の鈍さが長引くシナリオ。
- HQ/R&D移転・再編費用の前倒し発生による短期EPS毀損。
- 原材料インフレや為替反転、競合の価格攻勢。
まとめ
2025年は「需要の弱さ×投資前倒し」でEPSが見えにくい移行期です。一方で、PSGの競争優位とM&Aによる地理軸の拡張は中期成長の核であり、営業CFの厚みが投資と還元の防波堤になっています。バリュエーションは依然プレミアム(P/E≒35倍)。よって、スタンスとしては中立〜やや強気といえます。
ガイダンス見直しや統合コスト顕在化での押し目は、中期ホルダーには仕込み好機になり得ます。
通期下方修正は楽観の剥落であり、構造優位が崩れたサインではないことから、弱市況でシェアを取りに行く投資の胆力が試される局面だと考えます。
参考資料(一次情報中心)
- SHW 2025年Q2決算リリース:IR/報道:Reuters、Investopedia
- 2024年通期:IR(Net Sales $23.1B、営業CF $3.15B)
- 配当(増配・連続年数):IR
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は自己責任でお願いいたします。
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