米国通信は「守りの高配当」と「攻めの成長」の両面を併せ持つ、個人投資家にとって外せないセクターです。
5Gへの大型投資が一巡し、固定無線アクセス(FWA)や光ファイバー、法人向けソリューションで回収フェーズが進みます。一方、ケーブル事業者のMVNO攻勢、レガシー資産の環境対応、金利・規制の不確実性も残ります。本稿ではAT&T(T)、Verizon(VZ)、T-Mobile US(TMUS)を軸に、最新決算と経営方針から「構造」と「理由」まで掘り下げ、投資判断で押さえるべき論点を立体的に整理します。
分析対象の概要
AT&T(T)
モビリティ×光の二枚看板。
2025年Q2はポストペイド電話+401k、解約率0.87%、光(Fiber)純増+243k。FWA「Internet Air」は+203kで累計100万超へ。光通過は3,000万拠点超、今後は取得資産の取り込みで2030年に6,000万ロケーションを見据えます。
Verizon(VZ)
ARPA向上とFWAの拡大が牽引。
2025年Q2のワイヤレスサービス収入は$20.9B(+2.2% YoY)。消費者セグメントの電話純増は一時減速(▲51k)ながら、法人は+42kで補完。FWAは四半期+278k、累計510万規模。
T-Mobile US(TMUS)
ミッドバンド優位と価格訴求で純増を牽引。
2025年Q2のポストペイド電話+830k、解約率0.90%。FWAは四半期+454k、累計730万。通期ガイダンスは調整後FCF $17.6–$18.0B、設備投資約$9.5B。
事業内容と業界動向
共通潮流として、C-band/2.5GHz投資の峠越えにより、ARPU/ARPA改善と低解約によるキャッシュ創出が焦点です。FWAはケーブルの在庫型モデルを侵食し、価格面でも大きなプレッシャーを与えています。
- FWA vs 光:T-Mobile/VerizonはFWAでライトユーザー層を薄く広く刈り取り、AT&Tは光×携帯の同時浸透でLTVを最大化。
- ケーブルMVNOの反撃:Charter(Spectrum Mobile)とComcast(Xfinity Mobile)が価格優位で純増を確保。キャリアは卸収入で一部相殺しつつ、低価格帯の獲得コストとARPU管理が課題。
各社の要点
- AT&T:光通過3,000万+。FWA「Internet Air」はDSL代替として機能。税制変更により25–27年の現金税負担減(概数)を投資・年金等へ再配分。
- Verizon:FWA累計510万とFiosの二枚腰でブロードバンドを拡大。FCFレンジを引き上げ、財務規律を堅持。
- T-Mobile:サービス収入+6%、ポストペイド収入+9%。UScellular統合と光の取り込みで、郊外・地方の固定と移動の「面」を補完。
SWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)
AT&T(T)
- 強み:光×モバイルの二面展開、低解約(0.87%)、光通過3,000万超の面。
- 弱み:レガシー資産対応の不確実性、光投資の規模負担。
- 機会:資産取得により2030年6,000万ロケーションへ拡大、同時浸透の深掘り。
- 脅威:ケーブルMVNOの価格圧力、周波数政策の不透明感。
Verizon(VZ)
- 強み:品質評価と法人基盤、FWA累計510万のスケール。
- 弱み:消費者セグメントの純増の振れ。
- 機会:FWA普及とARPA引き上げ(myPlan等)。
- 脅威:MVNO台頭、レガシー資産対応の監視継続。
T-Mobile(TMUS)
- 強み:ミッドバンド主導の速度・体験優位、解約0.90%。
- 弱み:配当利回りは相対的に低位、光は外部取り込み依存が中心。
- 機会:UScellular統合で地方カバレッジと周波数層を強化、FWAの更なる積み上げ。
- 脅威:規制・承認条件の不確実性、ネットワーク増強コストの波。
競合他社との主要な財務指標比較(2025年Q2中心・概数)
指標 | AT&T (T) | Verizon (VZ) | T-Mobile (TMUS) |
---|---|---|---|
ポストペイド電話純増 | +401k | ▲51k(消費者)/ +42k(法人) | +830k |
ポストペイド電話解約率 | 0.87% | 0.90%(消費者) | 0.90% |
FWA純増 / 累計 | +203k / 累計>1M | +278k / 累計5.1M | +454k / 累計7.3M |
サービス収入(YoY) | モビリティ$16.9B(+3.5%) | ワイヤレス$20.9B(+2.2%) | サービス$17.4B(+6%) |
調整後FCF(通期ガイダンス) | —(Q2実績$4.4B) | $19.5–$20.5B | $17.6–$18.0B |
2025年CapEx目安 | —(四半期$4.5–$5.0B目線) | $17.5–$18.5B | 約$9.5B |
配当・株主還元 | 四半期配当を継続 | 連続増配の実績(四半期配当) | 配当+大型自社株買い |
※数値は各社2025年Q2公表資料等に基づく概数。最新の開示で更新される可能性があります。
セクター比較(構造・評価の見取り図)
- キャッシュ創出力:FCFレンジは概ねVZ ≧ TMUS > T(四半期積み上げ)。
- VZはFWA×Fiosの二枚腰、TMUSは軽い投資でFCF効率が高い。Tは光の浸透率の立ち上がりが鍵。
- 成長ドライバー:TMUS=加入者純増、VZ=ARPA×ブロードバンド、T=光×携帯のクロスセル。
- ケーブルMVNOの拡大で低価格帯の取り合いが厳しく、各社とも解約率管理がKPI。
- 規制・ガバナンス:M&A承認、レガシー資産の扱い、周波数政策など外部要因のボラティリティは織り込みが必要。
今後の戦略と展望の分析
AT&T
- 光の面拡大×同時浸透:資産取得により6,000万ロケーション計画が現実味。光ARPU上昇と携帯の同時契約で解約低下→LTV向上の構造的改善が続く。課題は建設速度と投資回収。
- Internet Airの最適配置:光未整備エリアのキャッシュブリッジとしてFWAを活用。四半期+203kは需要の強さを示唆。
Verizon
- FWAの上限把握と品質維持:累計510万規模。周波数・バックホールの最適化でARPU/ARPAの劣化を防ぎながら拡大。
- 法人の再加速:Q2で法人電話+42k。セキュリティやマネージド通信の付加価値でスティッキーな収益を狙う。
T-Mobile
- “スピード×バリュー”の深掘り:速度・体験首位をマーケで徹底活用。解約0.90%水準の維持とFWA+地方カバレッジ拡張で規模の経済を積み上げ。
- M&A統合の実行力:UScellularの周波数・顧客取り込み、光(Lumos/Metronet)補完で固定×移動の“面”を固める。承認条件と統合コスト管理が勝負どころ。
通信セクターへの投資のメリットとリスク
メリット
- 配当と自社株:VZは連続増配の実績、Tは安定配当、TMUSは配当+大型買戻しのハイブリッドで総還元が厚い。
- FWA/光の可視性:加入者と通過の“量”が見えるため、数四半期先の売上・FCFの読みやすさが増している。
リスク
- 規制・環境対応:レガシー資産(例:鉛被覆ケーブル)の扱い次第で想定外コストの潜在性。
- 競争激化:ケーブルMVNOの純増加速は低価格帯の獲得コスト上昇と価格の下押し圧力に。
- M&A統合:UScellular等の統合はシナジー実現のタイムラグと承認条件でリターンが振れる。
まとめ
キャッシュ重視派にはVerizon:FWAと品質優位で高いFCFレンジを最も確度高く狙える構図。配当成長の継続性も相対的に見えやすい。
成長効率派にはT-Mobile:純増機械としての強さに加え、軽いCapExで厚いFCF。配当利回りは低くても総還元はトップ級。
リビルドの妙味を買うならAT&T:光×携帯の同時浸透で評価修正の余地。ただし、光建設の執行とレガシー資産の不確実性をモニターしながら、押し目で段階的に組み入れる戦術が合うと考えます。
参考:ケーブルMVNOの存在感(補足)
- Charter:四半期で+500k級の純増、累計は1,000万超規模へ。
- Comcast:四半期で+378k級の純増、累計850万超。
- → ワイヤレス純増の価格弾性が高まり、キャリアの低価格帯に構造的圧力。
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