両者は信託報酬0.03%で拮抗、受益者も多く情報も豊富です。
違いは「市場のカバー範囲」と「指数の作り」。さらに日本の投資家にとっては為替(USD/JPY)がトータルリターンに直結します。
本記事は最新の公式データをベースに、“構造”と“なぜ”まで掘り下げ、初心者が迷わない指針を提示します。
先に“要点”──こう選べば失敗しにくい
- 分散の最大化=VTI。大型〜小型まで米国株式ほぼ市場全体を時価総額比率で保有。小型株の成長取りこぼしを減らしたい人に向く。
- 王道の大型株=VOO。米国大型株のコア。銘柄数は500前後でメガテックの比率が高く、過去10年はVTIよりわずかに高リターンの局面が多かった。
- コストは実質同率(0.03%)。差では選べない。
- 為替はどちらも同じ“米ドル建て”。円安が進めば円ベースリターンを押し上げ、円高は逆風。ヘッジしない限りVTI/VOO間で為替影響の差はない。
- 迷ったら用途で分ける:積立の“主食”はVOO、サテライト(分散上積み)にVTIを少量、あるいは逆の二刀流でもOK。
基本スペック比較(最新)
| 項目 | VTI(全米) | VOO(S&P500) |
|---|---|---|
| 連動指数 | CRSP US Total Stock Market Index(米国株式のほぼ100%を対象) | S&P 500(米国大型株の約80%時価総額をカバー) |
| 銘柄数の目安 | 約4,000銘柄(大型〜小型) | 約500銘柄(大型) |
| 経費率 | 0.03% | 0.03% |
| 直近30日SEC利回り(参考) | 約1.11%(2025/09/30時点) | 約1.12%(2025/09/30時点) |
| 上場 | 2001年 | 2010年 |
| 為替通貨 | USD(円からの投資は為替影響あり) | USD(円からの投資は為替影響あり) |
出典:Vanguard公式プロファイル(VTI/VOO)、CRSP・S&P各指数資料。詳細は脚注参照。
指数の“設計思想”の違いがもたらすもの
VTI=CRSP USトータルマーケットは、時価総額加重で米国市場を“割合ベース”に広く抑える設計。固定銘柄数ではなく、市場の比率に応じてセグメントを決めるため、入替えの効率性と売買コスト低減を狙う思想です。小型株まで含むため、長期でのイノベーション取り込みや、特定の大型銘柄偏重のリスクを薄める効果が期待できます。
VOO=S&P500は、米国を代表する大型株の浮動株調整時価総額加重。銘柄採用には収益性などの基準があり、大型・収益性重視の絞り込みが特徴。結果としてメガテック比率が高まり、直近10年の「大型グロース主導」局面ではVTIよりわずかに上振れしやすかった面があります。
パフォーマンスとリスク(ざっくり実務目線)
- 過去リターンの差は“僅差”。直近10年平均はVOOがVTIをわずかに上回る局面が多い(大型優位のため)。ただし将来を保証しない。
- ボラティリティはほぼ同等。統計比較でもVTIとVOOの価格変動性は近い水準。体感リスクは大差ない。
- 分散の質。VTIは小型まで含む分、“広く薄く”の市場収益。VOOは“大型の濃さ”を享受できる一方、トップ銘柄の集中リスクを相対的に取りにいく設計。
コスト・配当・税金:日本の個人投資家が押さえるべき要点
実質コスト
どちらも経費率0.03%。これが長期では効いてきますが、両者間の差では決め手になりません。
配当利回り(参考値)
30日SEC利回りは2025/09/30時点でVTI1.11%、VOO1.12%。市場局面で変動するため、“配当目当てでの選好差”は基本的に小さいと見てよいでしょう。
源泉税と国内課税(ざっくり)
- 米国ETFの配当には米国源泉税がかかります。日米租税条約の適用で個人の一般的な配当は10%に軽減(フォーム提出などの要件あり)。
- その後、日本で課税(所得税・住民税等)。外国税額控除により二重課税の調整が可能です。詳しい計算は国税庁の案内を参照。
※本節は一般的な情報であり、税務アドバイスではありません。個別要件は税理士等にご相談ください。
為替リスクを“数式”で直感する(円投資家の超重要ポイント)
円から米ドル建てのVTI/VOOを買う場合、円ベースリターン ≒(1+米ドル建てリターン)×(1+USD/JPY変動率)−1 で近似できます。例えば米株が+8%の年に…
| USD/JPYの変化 | 円ベースの概算リターン | 解釈 |
|---|---|---|
| +10%(円安) | 約+18.8%(1.08×1.10−1) | 株高と円安がダブルで効く |
| ±0% | +8% | 為替の影響なし |
| −10%(円高) | 約−2.8%(1.08×0.90−1) | 株高でも円高で相殺超え |
現在のUSD/JPY参考水準は154円前後(執筆時点)。為替はリターンを大きく左右するため、長期積立で時間分散するか、必要に応じてヘッジ付きの指数(例:S&P500のJPYヘッジ版)を知っておくと納得感が増します。
タイプ別:あなたに合うのはどっち?
- 初めての米国株インデックスで迷わず行きたい:VOO。大型株コアの王道で情報量が多く、学びやすい。
- 分散命・小型も拾いたい:VTI。市場全体の成長を“取りこぼし少なく”取りに行く思想。
- 指数集中リスクが気になる:VTI比重を高め、銘柄集中度を相対的に低減。
- 直近の大型優位に素直に乗りたい:VOO。
- 迷いが消えない:積立のコアをVOO、サテライトにVTI(たとえばVOO:VTI=7:3など)。
流動性・規模感(最新トピック)
VOOは2025年に世界最大のETFの座に就いたと報じられた時期があり、資産規模・流動性の面でトップクラス。個人投資家の売買コスト・価格乖離の観点でも安心材料です(市場状況で変動)。
よくある質問(初心者向けに超要約)
Q. 配当はどっちが多い?
A. 指数構成の違いから僅差で入れ替わる程度。直近SEC利回りはVTI1.11%、VOO1.12%で大差なし。
Q. 為替ヘッジ版のVTI/VOOはある?
A. Vanguardの米国籍ETFにJPYヘッジは原則ありません。ヘッジを使う場合は、S&P500 JPYヘッジ指数に連動する商品(国内ETFや投信)を検討。
Q. 長期の“勝ち”はどっち?
A. 将来は不確実。大型優位が続くならVOOに分がある、広く分散で取りこぼしを減らすならVTIに分がある──この構造理解がカギ。過去10年はVOOが僅差で優位な局面が多かった。
実践ステップ:買い方のコツ(新NISAにも対応)
- まずは積立比率を決める:コア(VOO or VTI)70〜90%、サテライト10〜30%など、自分の納得解を数値化。
- 買付タイミングは“時間分散”:為替・株価の両リスクを平準化するため、毎月・毎週など機械的に。
- 定期点検は年1回:配分がズレたらリバランス。指標変更や経費率の改定などのニュースもチェック。
まとめ:選ぶ視点は“設計思想×為替×自分の納得”
VTIは米国市場丸ごと、VOOは大型コアの王道。どちらも低コストで、長期投資の主力たりうる優良ETFです。将来の“勝ち”は誰にも分かりません。だからこそ、指数の設計思想と為替リスクの仕組みを理解し、自分が続けられる配分に落とし込むこと。迷いが残るなら二刀流で、時間分散で淡々と積み上げる。──それが、初心者が最短で“迷い”を卒業するコツです。


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